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アイズ・ソウ・シュタインズは、その暗く淀んだ赤色の瞳を"そちら"に向けていた。
"そちら"とは、肩程まである金色の髪を揺らし、こちらに背を向けたまま雑事を行っている自身の補佐官の女。
その均一にバランスのとれた体のラインの、丁度良い膨らみを持つ丸みを帯びた臀部だ。
「大佐。それ以上見るのでしたら、軍法会議にセクハラとして訴えますよ?」
「エリー。これは仕方の無い事なんだ。私とて、大切な部下である君を視姦するような下卑た真似事などしたくは無い。だが、こんな辺境で周りは男連中に囲まれ、私の色欲は吐き出す術を失った。これはつまり、生理現象と相違なーー」
言葉の途中で、エリーと呼んだ女の方向から銀色のナイフが飛来。
アイズの顔の直ぐ横を抜けて簡易テントの布壁を突き破って消える。
「次に私をそんな目で見たら、その汚らわしい情欲を二度と吐き出せないよう大佐の"大切なモノ"を切り取って差し上げますね」
エリーはエメラルドグリーンの瞳をこちらへ向け、ニッコリと微笑んで言う。
死刑宣告にも近しい発言を受けてアイズは視線を逸らす。
テント内は設置されたランタンの明かりに照らされているものの薄暗く、アイズの前の長テーブルに置かれた書類を読むには心許ない。
かといってそこに大きく広げられた地形図を見る必要もなく、ここ本部では既にやる事は全て終わっている。
つまりは、暇なのだ。
「つまらない戦だな」
分かりやすく話を逸らすアイズにエリーは苛立ちを覚えたが、数秒沈黙して溜め息を漏らす。
「そんなもの、初めから分かっていた事じゃないですか」
返しに、アイズは「まぁな」と項垂れる、
「上層部からの命令とはいえ、良く引き受けましたね」
「私は小物だよ?逆らえる訳ないじゃないか」
飄々とした口調で笑むアイズに、「どの口が言うんですか」とエリーは呆れる。
沈黙が流れ、エリーは地形図を見つめているアイズを不思議に思った。
「今回の作戦、大佐らしくありませんね」
「そうか?」
「はい」
きっぱりと答えるエリーにアイズは目を丸くする。
「水面下で情報収集に長けた『烏合』の構成員の位置を補足。物量にモノを言わせた同時多発的な急襲で里に王手をかけた手腕は、流石に見事だと思います」
「褒めても何も出ないよ」とアイズは笑む。
「けれど、"今回の作戦"は違います」
真剣な眼差しで言うので、アイズも笑みを消した。
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