序章ーある1つの定義ー

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何処までが真面目で、何処からが不真面目なのか。 長年付き添っているが、エリーには未だにこの男の底が分からない。 そんな心理を悟ってか、アイズは「クク」と笑って右手を上げる。 「何事も考えすぎは良くない。こういう時は少し外の空気を吸ってくると良い」 犬を追い払うような仕草で言うアイズに、エリーは視線を右へやる。 「配備人員の確認でもしてきます」 そう返して、エリーは歩き出す。 すると、「そうだ」とアイズが止める。 「ついでに珈琲を一杯頼む。私も一息つきたいのでな」 エリーは「かしこまりました」と呆れ気味に答えて、テントから出ていった。 アイズはエリーの足音が遠退いたのを確認して、息を吐きながら椅子に深く凭れた。 テントの天井を見つめる。 酷く嫌な気分だ。 この作戦はただの人殺しと何ら変わりようがない。 大義名分など存在しない。 相手が暗殺集団で構成員全員が悪人だと仮定して、それでも、得心がいくはずがない。 やっている事はエリーの言葉通り大量虐殺だ。 「、、、クソッタレの上層部め」 自分等は手を汚さず、部下のそのまた部下に汚い仕事を回すだけの連中。 「反吐が出る」 悪態を吐き、唇を噛み締める。 いつかその薄汚い鍍金を剥がし、肥え太った愚人どもの醜態を晒させてやる。 怒り心頭のアイズはしかし、突然の寒気を覚えた。 それは、危機に瀕した時に人間が無意識から教えてくれる動物的本能の一端だった。 察した訳ではない。 ただ、当たり前に、身震い故の恐怖を感じ取ったそちらへ、無意識の中で視線を動かす。 己の首筋。 そこに刀が添えられていた。 「ーーッ!?」 「動くな」 静かな声。 己の背後だ。 冷徹な声音にアイズは息を呑む。 「騒げば殺す。妙な真似をしても殺す。俺の質問にだけ答えろ」 右耳からそっと囁かれるそれに、アイズは「分かった」と言う。 答えながら思考は一つに絞られていた。 『烏合』。 その構成員で間違いない。 だが、どうやって? 疑問符が踊る。 ここは本陣のただ中。 鼠一匹とてすり抜けられないはずの布陣をした。 それを、誰にも気取られる事もなくここまでやってきた。 いくら暗殺を主として鍛えてきた者達で、夜という加護を得られた所で、世界でも名を馳せた強豪達が数多いるこの本陣に、ただの一人にも見付からず忍び込めるだろうか。 答えは否。 あまりにも無謀、可能性すらゼロに等しいだろう。 瞬間にアイズの至った結論は、裏切り。 内通者の手引きによりここまで潜入した可能性。 それが一番しっくりくる。 だが、そのアイズの結論は次の言葉によって脆くも瓦解を始める。 「ーー指揮官は何処にいる?」 「、、、なに?」 アイズは困惑した。
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