第2章ーわがまま淑女に御用心ー

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「それで結局、この時間まで中央区から西区に東区とお嬢につれ回されたのか?」 ギルド『グリムソード』。 一階の受付のある酒場にて、一角の席にスタンとダダン、カリオンとミリアムは座っていた。 時刻はもう夜の八時を迎えようとしている。 「あぁ、門限は六時と聞いていたから流石に焦りはしたな。速度を上げるとあの女、、、お嬢様に怒られるし」 スタンのそれにミリアムは「それは災難でしたね」と言いつつ、カラカラ笑っている。 「面談に行くとは聞いていたが、即日に採用され、克つそのまま勤務とはな。御苦労だった」 カリオンに背中を擦られ、「いや、俺としては妹の件が一つ片付きそうで、助かった」と笑む。 「しかし飛行術式も使えるとはな。益々底の見えないガキだな。お前は」 カリオンが言うと、「ミリアム。お前も使えるんだろ?」とダダン。 「えぇまぁ、でも魔力効率も悪いですから、早々使わないですね。やるなら短時間の身体強化を連続して障壁を足場にーー」 「魔術理論はやめろ。そんなもん俺達凡人には飛行術式と変わらねぇっつうの」 遮られてミリアムは「えー」とスタンを見る。 「スタンさんなら分かってくれますよね?」 「そうだな。戦闘ならその方が速度も出せる。相手を撹乱するには良い戦法だ」 「ほらぁ」とミリアム。 ダダンは呆れたように視線を逸らして見せた。 会話が途切れたので、「しかし」とカリオンが口を開く。 「スタン。今日は飯も食えるんだろう?」 「あぁ、少々難儀したが、家族には外で食べてくると連絡はした」 カリオンは頷いて、今度はミリアムへ視線を向ける。 「お前も来るなど、珍しい事もあるものだ」 「紹介者としては、一応の筋は通さなきゃいけませんからね。スタンさんのお仕事も決まりましたし、今後は依頼も受けるでしょうし、前祝いみたいなものです」 「本当か?ギルドには別件で来たんだろう?」 「まぁ、今度の討伐依頼の件で、Sランクの会議はありましたけど、、、」 言って、「僕だってそんな、薄情な訳じゃないですよ」と声音を落とす。 「まぁそんなもん、ついでだろうが何だって良いじゃねぇか」 ダダンが言う。 「なかなかねぇ機会なんだ。親睦会って事にしようぜ」 笑って続けるので、「そうだな」とカリオンも笑んだ。 スタンはそのカリオンのギプスへと目を向ける。 「そういえば、完治までどれくらいかかる?あの女、、、お嬢様に聞けと言われてな」 「ん?そうだな。医者からはあと一週間ほどと言われた。折れた骨はもうくっついているそうだ。安心しろ」 「、、、そうか」 「お!んじゃあカリオンのくっついた祝いも兼ねて、パーっとやるか!ミリアムの奢りで」 ダダンが言って、「え!?僕ですか!?」とミリアムが驚く。 「何だそれは」とカリオンも呆れて、皆の笑い声が木霊する。 スタンはふと思う。 ーーこういう日常も、悪くないものだな。
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