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朝食を終えると、スタンは直ぐに家を出た。
建物の屋上を跳躍して一直線に目的地へ向かう。
人目を避ける為に『見えざる者』で自身を透明化して空を駆った。
高速の跳躍を繰り返して最短ルートを選べば、数分で目的地が見えてくる。
王都の象徴である巨大な城を囲む形で形成された貴族街。
高級住宅街でもあるその中で、一際広大な敷地面積を誇る三階建ての屋敷だ。
門から続く庭に巨大な噴水と手入れの行き届いた花壇が広がり、一本道の舗装された石畳が玄関まで続いている。
スタンは門の前に着地すると、軽く衣服を整えて門に触れる。
「はい」と触れたそこから女の声がしたかと思えば、「あ、スタンさん。おはようございます」と声が続けた。
門が自動的に開く。
スタンは中へと踏み入り歩を進めた。
噴水の前まで歩けば、玄関からメイド服を着た褐色の女が走ってきていた。
黒い長髪の三つ編みを揺らし、服では隠しきれない豊満な胸部をこれでもかと揺らしている。
「スタンさん!おはようございます!」
息を切らせながらスタンの前で止まり、深い黒の瞳で見上げてくる。
「おはよう」
スタンが返せば、ニコッと微笑む。
「エマ、だったか?あの女、、、お嬢様の準備は出来てるのか?」
スタンは昨日、サーシャを屋敷へ送り届けた時に会っており、その時に聞いた名前をどうにか思い出して尋ねる。
「名前、覚えてくれたんですね」
嬉しそうにエマが言うと、「スタン!遅刻よ!」と声。
二人が目を向ければ、玄関の前に仁王立ちして腰に両手を置いたサーシャが立っていた。
「私が学院に遅れてしまいます!」
怒った様子で言うので、スタンはやれやれといった表情でサーシャへと歩み寄る。
「約束の時間より前だ。怒鳴られる謂れはない」
言いながら歩を進めれば、後ろから着いてきたエマが「すみません」と小声で謝罪をしてきた。
「お前が謝る事はないだろう」とスタン。
「時間厳守で来たのに一方的に怒鳴るこいつが悪い」
「そうよ!エマ。あなたがーー何ですって?」
サーシャが睨んでくるので、スタンは白々しく視線を逸らした。
エマは慌てる。
「お、お嬢様。そんな事より、遅刻してしまいますよ!」
言われてサーシャは次にエマを睨む。
「そんな事って、あなたね。この男は今私を侮辱ーー」
話している途中でスタンはサーシャを抱えた。
「ーーちょっと!びっくりするじゃない!」
「馬車が用意されていない。どうせ空で送れと言うのだろう?早く行くぞ」
「あなたね。私の話はまだ終わっておりませんのよ?」
「飛ぶぞ。舌を噛むなよ」
有無を言わせぬスタンに、サーシャは「ムゥ」と頬を膨らませて口を閉じた。
その様にエマは「フフ」と微笑み、「行ってらっしゃいませ。お嬢様」と深く頭を下げた。
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