第2章ーわがまま淑女に御用心ー

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「走り込み終わりー!一旦休憩挟んで飯行くぞー!」 『王都警備隊統括本部』。 その演習グラウンドにて、エドが疲弊した騎士達に叫んでいた。 時刻は正午過ぎ。 20㎏はあるリュックを抱え三時間もアスレチックコースを走らされ、そのゴールにて倒れている者がほとんどの第三騎士隊。 その中に涼しい顔のスタンと、震える足でも絶対に倒れまいとするプラムの姿がある。 「おいスタン?どうしたお前?もう疲れたのか?」 問い掛けにスタンはタオルで汗を拭いながらプラムを見る。 「そうだな。良い運動になった」 「ほう?俺はまだまだ走れるぜ?ぜんっぜん疲れてねぇからな」 プラムは呼吸も荒く、足も手も震えている。 「そうか。ならばあと十周ほどして飯に行くか?付き合うぞ」 当たり前に言うので、プラムは「へ?」と顔をひきつらせる。 「お、おう!ちょうど足りねぇと思ってたんだよなぁ!」 目を白黒させながら言うので、後ろからエドが後頭部を叩いた。 「オーバーワークだ馬鹿。くそみてぇな見栄張るんじゃねぇ」 エドに叱られ、「いや兄貴、俺はまだ」と言いかけてまた叩かれる。 「隊長だ。仕事じゃそう呼べっつってるだろ?まだ慣れねぇのか?」 言われてプラムは「すんません」と俯いた。 エドは「それに」とスタンを見る。 「こいつの荷物はてめぇらと違って、重力負荷の術式をかけてる。重さだと、、、どれくらいだ?」 「朝の運動だからな。50キロに調整してある」 「はぁ?」とプラム。 自分のリュックを下ろし、「貸せ!」とスタンのリュックを剥ぎ取った。 瞬間にドンと落とす。 「はぁ!?これ50じゃねぇだろ!?」 「なに?調整ミスか?」 スタンはヒョイとそれを持ち上げ、何度か上げ下げする。 「そういう事か」 一人で得心するので、「あ?」とプラムが睨む。 「リュックが50で、そこに重力負荷をかけてあるから勘違いした。重さは、、、分からん」 「お前脳筋にも程があるだろ」 「馬鹿と天才は紙一重って言うからなぁ」とエド。 周りで倒れている騎士達はそれを聞いてカラカラと笑った。 エドは呆れた顔で周囲を見渡し、「取り敢えず、シャワー浴びて飯に」と言いかけてスタンの視線に気付き振り返った。 遥か遠く。 演習グラウンドの入り口付近に人影がある。 その者はこちらを見ているが、体の半分をグラウンドに設置された用具室の壁に隠している。 「あ?あれ、ナナリーか?」 エドが言えば、「ナナリー。そんな名前だったか」とスタン。 「恐らく用があるのは俺だ」 言うとスタンはナナリーへ向かって歩き出す。 「俺は後で行く。先に食堂で食っておいてくれ」 去り際に背中でそう言った。
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