第2章ーわがまま淑女に御用心ー

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スタンがナナリーへと近づけば、その距離が縮まる程にナナリーの体の見えている部分が壁へと消えていく。 (挑発か?ふむ、、、誘いなら乗るか) スタンはわざとゆっくり歩き、気付かれないよう周囲を警戒していた。 「とーー」 用具室の目前まで来ると、唐突にナナリーが口を開く。 「止まって!」 スタンは立ち止まる。 「そ、それ以上は、まだ、ちょっと無理だから、、、」 スタンは首を捻る。 (誘いではないのか?) 言動に奇妙さを感じつつ、スタンは次の言葉を待った。 ナナリーは既に顔半分だけとなっており、片目でこちらを凝視している。 「わ、私に用って、、、なに?」 「用があるのはお前じゃないのか?」 問い返され、ナナリーは困惑した。 「よ、呼んだのはそっちでしょ!」 頑張って声を絞り出す。 スタンは腕組みをして、「確かにそうだな」と頷いた。 「お前、俺を"狙っている"のか?」 問いにナナリーは「うぇ!?」と狼狽えた。 「ね、ねね狙ってるとか、そそういうのはまだ、、、分かんないっていうか」 スタンはいぶかしむ。 「私だって、初めての事だし、その、何て言うか、、、」 灯火が消えそうな声量にスタンは「何だ?」と一歩踏み出す。 「待って待って!ほんとに!それ以上は無理!!」 「何が無理なんだ?」とスタンは止まらない。 途端にナナリーの顔が壁の向こうへ消えた。 疑問に思ってそこまで行けば、ナナリーは居なかった。 視線を上げると、全速力で逃げ行くナナリーの背中。 「意味が分からん」 呟いて、しかしと既に霞むナナリーの背を見る。 (流石は隊長格といった所か。肉体強化の術式に無駄がない) グッと足に力を込める。 「、、、『体内魔装(たいないまそう)』」 呟きに伴って、スタンの肉体が微かに青く光った。 瞬間に一歩。 霞んでいたはずのナナリーを通り過ぎ、その目前で滑るように着地した。 ナナリーは驚愕して立ち止まる。 その顔は、先程の焦りを消した真面目な物だった。 「肉体強化?とは違う、、、術式が見えない」 「何故俺を狙う?家族に危害を加えるつもりならば容赦はしないぞ」 スタンの言葉に、ナナリーは思考を停止させた。 次には「へ?」と首を大きく傾ける。 「家族に?」 「俺がお前に何かをしたのか?狙う理由は何だ?答えろ」 「ちょ、ちょっと待って!」 ナナリーは両手を前に突き出してまた焦った顔をした。 「狙うって、そっち!?」 「、、、そっちとは何だ?それ以外にあるのか?」 ナナリーは途端に狼狽え、「な、ない!ないよね!」と答えた。
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