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スタンがナナリーへと近づけば、その距離が縮まる程にナナリーの体の見えている部分が壁へと消えていく。
(挑発か?ふむ、、、誘いなら乗るか)
スタンはわざとゆっくり歩き、気付かれないよう周囲を警戒していた。
「とーー」
用具室の目前まで来ると、唐突にナナリーが口を開く。
「止まって!」
スタンは立ち止まる。
「そ、それ以上は、まだ、ちょっと無理だから、、、」
スタンは首を捻る。
(誘いではないのか?)
言動に奇妙さを感じつつ、スタンは次の言葉を待った。
ナナリーは既に顔半分だけとなっており、片目でこちらを凝視している。
「わ、私に用って、、、なに?」
「用があるのはお前じゃないのか?」
問い返され、ナナリーは困惑した。
「よ、呼んだのはそっちでしょ!」
頑張って声を絞り出す。
スタンは腕組みをして、「確かにそうだな」と頷いた。
「お前、俺を"狙っている"のか?」
問いにナナリーは「うぇ!?」と狼狽えた。
「ね、ねね狙ってるとか、そそういうのはまだ、、、分かんないっていうか」
スタンはいぶかしむ。
「私だって、初めての事だし、その、何て言うか、、、」
灯火が消えそうな声量にスタンは「何だ?」と一歩踏み出す。
「待って待って!ほんとに!それ以上は無理!!」
「何が無理なんだ?」とスタンは止まらない。
途端にナナリーの顔が壁の向こうへ消えた。
疑問に思ってそこまで行けば、ナナリーは居なかった。
視線を上げると、全速力で逃げ行くナナリーの背中。
「意味が分からん」
呟いて、しかしと既に霞むナナリーの背を見る。
(流石は隊長格といった所か。肉体強化の術式に無駄がない)
グッと足に力を込める。
「、、、『体内魔装』」
呟きに伴って、スタンの肉体が微かに青く光った。
瞬間に一歩。
霞んでいたはずのナナリーを通り過ぎ、その目前で滑るように着地した。
ナナリーは驚愕して立ち止まる。
その顔は、先程の焦りを消した真面目な物だった。
「肉体強化?とは違う、、、術式が見えない」
「何故俺を狙う?家族に危害を加えるつもりならば容赦はしないぞ」
スタンの言葉に、ナナリーは思考を停止させた。
次には「へ?」と首を大きく傾ける。
「家族に?」
「俺がお前に何かをしたのか?狙う理由は何だ?答えろ」
「ちょ、ちょっと待って!」
ナナリーは両手を前に突き出してまた焦った顔をした。
「狙うって、そっち!?」
「、、、そっちとは何だ?それ以外にあるのか?」
ナナリーは途端に狼狽え、「な、ない!ないよね!」と答えた。
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