プロローグ 結婚

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「確かに就職をする場合は夏頃から準備を始めた方がよいですが、元々、作曲・編曲系メインの職につきたかったので、どこかに就職するというよりはフリーでやっていこうかなと考えてたんです。だから卒業後は、完全フリーで活動するか、大学に残って研究職をしながら傍らで作編曲家やピアノをやっていこうかなと」 「じゃあ、就活はしないって事?」 「そうですね、今のところは。ただまぁ、後者は大学での成績が関わってくると思うので、なれるかどうかは今後の俺の努力次第ですが」  拓弥から飛んできた質問に、たかのっぽくんが苦笑と共にうなずき返す。いや、努力次第って、たとえフリーになったとしてもそれって同じじゃない? 予想してなかった返答に、「ほへー」と思わず間抜けな相槌が俺の口からこぼれ落ちる。 (なんか、フリーとか研究職とか、全然別世界の話に聞こえるや)  俺なんて、卒業後はほぼ就職一択の学科だったからなぁ。  研究分野やそうした職がないわけじゃないんだけど、やっぱり現場に出て実際に子ども達と相対しなければ見えてこないものの方が多いからさ。なるにしても、現場で一定期間働いてから研究系に転職する人の方が多いんだよね。  卒業後すぐに研究職へ、しかも他で働きながらという考えは、まずほぼ存在しないと言っても過言ではない。  そしてそれはたぶん、同じように大学を出ている優作や、高卒で就職をした拓弥も似たようなものだろう。  ちらりと2人を見れば、予想外の返答に目を小さく丸める拓弥と、面白そうな話を聞いたとばかりに関心した顔つきで顎をさすっている優作が目についた。
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