プロローグ 結婚

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 トゥーンと、歪みのないシンプルなストラトギターの音が、拓弥の質問と共に俺の耳に届いた。  ちらりと拓弥の方を見てみれば、ギターのヘッドにチューナー――楽器の音程を測る機械のこと――をつけて調整(チューニング)を開始している姿が目につく。どうやら、いつまでも拗ねてる俺にこれ以上いろいろ言っても無駄と判断し、話題をチェンジする事にしたようだ。  優作の方も、もうこの話題には飽きたというように、拓弥の後方でドラムの調整を始めている。  ……君達、親しき仲にも礼儀ありって言葉、ご存知?  まぁ、俺も本気でいつまでも拗ねてようとは思ってないからいいけどさー。 「んー、まぁ、居る子は居るよ」と拓弥に返しながら立ち上がる。体育座りで凝り固まった体を伸ばし、これから始まる練習に向けて体を整えていく。 「学童の子とかはさ、学校がある日、長期休み関係なしに居るよ。実際、今日俺に話しかけてきた子達も学童の子だったし」 「あ。なるほど、学童さんか」 「そういえば、学童は長期休みでも運営されてるんだったね」と、拓弥が納得したように頷いた。 『学童』。正確には『学童保育』。  共働きなどの様々な事情で、放課後や春休みなどの長期休み期間に子どもを見ていられないご家庭が、子どもを一時的に預ける事ができる施設および保育事業である。
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