プロローグ 結婚

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 井上さん、ちょっと心配しぃなところあるからなぁ。  それだけ仕事に真面目なのだと思えば、とてもいい事なんだけどね。変に気にしてないといいなぁ。 (そういえば、井上さんとも俺達がバンドを結成した頃ぐらいから、よく話すようになったんだよな) 『よく』とは言っても、校内ですれ違った時に軽い雑談をするぐらいだけど。「今日は天気がいいですね」とか「子ども達、宿題ちゃんとやってました?」とか。それも大抵は俺の方から話しかける場合が多い。  井上さん、なぜか俺が話しかけると、途端目をそらすんだよね。  この間なんて、挨拶しただけなのに、「お、お疲れ様ですっ」て顔を赤くしながら足早で去られちゃったし……。あれは地味にショックだったぜ。 (俺としては、せっかく知り合えたのだから、もう少し仲良くしたいんだけど)  今日も別れ際に「ご結婚されないんですか」って訊かれたけど、「相手も居ませんしね」と返したら、なぜかホッとした顔をされたんだよな。  いや本当、俺、なんか嫌われるような事しましたかね……?   いかん、なんかまた落ち込んできた――、ははっ、と、空笑いと共に遠いところを見始めたその時だった。 「すみません、遅くなりました」  ガチャりと、スタジオの扉が開いた。
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