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お昼過ぎ、誰と顔を合わせても舞踏会の話をされてうんざりした私は、庭の東屋にあるベンチに座り、ぼうっとお外を眺めていた。
部屋にいるとひそひそという噂話が聞こえて嫌だったからだ。
お庭には赤や黄色のバラ、ダリヤが咲き始めていて、葉が散り始めた庭に彩りを添えている。
国王の誕生日は一大イベントだから、みんなが盛り上がるのは仕方ないし、舞踏会に行くのは当たり前、って思うのも無理はないわよね。
なんでこんなよくわからない舞踏会を考えたのかしら?
確か先代の国王から、国民を招待した舞踏会をひらいていると聞いたような気がする。
国によるお見合い、とかいわれていて実際にそこで出会って結婚に至る人たちが多いというから需要は高いんだろうな。
ミティ公国出身だから、国王に会うのは……という断り方、できるかな……
ミティ公国はこの王国に攻められた。けれどあっけなく戦争は終わった。犠牲者は私の両親のほか、前線の騎士たち、ときいている。
両親は公国内にいた国王側の裏切り者たちに殺されてしまって、あっという間に戦争は終結した。
父が亡くなり、誰が公国の代表を務めたんだっけ……その代表との間で確か停戦協定が結ばれて、ミティはこの王国に併合されたのよね。
私はミティ公国の出身て親を戦争のときに亡くしてるから、国王の誕生日なんて祝いたくない……って意見で納得してもらえないかな……
それか他に舞踏会にいかなくてすむ方法……
「……あ」
そうよ、舞踏会よりも前に私が婚約者を見つけたらいいのよね。そうよ。公爵夫人が言う通り、私に両親がいなくても気にしない人、いるわよね?
確か、町では頻繁にお見合いパーティーみたいなのが開かれているっていうから、それに行くのはてかもしれない。
他のメイドの子に何回か誘われたことがあるけれど、今まで行ったことないのよね……
「その手があるじゃないの、私!」
そう声を上げてぎゅっと手を握りしめて空を見上げると、男の人の声が響いた。
「……何を叫んでるんだ?」
聞こえるはずがない声に驚いた私は、東屋の外へと視線を向ける。
そこにいたのは、紺色のシャツを着たシリル様だった。
な、なんでこんな庭の外れの東屋に……
「シ、シリル様、こんなところで何を……」
慌てて立ち上がり頭を下げて言うと、彼はこちらに近づきながら言った。
「課題で、庭の植物の調査」
あぁ、そうか、シリル様って学生ですもんね。ときおり課題で庭とか郊外の森に行ったりしていると聞いたっけ。
フィールドワークっていうんだっけ。
「君こそこんなところで何を?」
そしてシリル様は私の目の前に立つ。その距離は一メートルほどだろうか。
私は少し考えた後その問いに答えた。
「今日はお休みの日なので、ここで考え事をしていました」
「外に出たらいいのに」
「行きたいところ、ありませんし」
外に出なさ過ぎて何がどこにあるのか知らないのよね……
だから外に出たいとはあまり思わなかった。
「あ、でも明日、騎士のサーラさんとお出かけする予定になっています」
そう私が答えると、シリル様は一瞬驚いたような顔をした。
けれどすぐに真顔になり、小さく首を傾げた。
「……サーラ……あぁ、ジャンのことか」
「はい。サーラさんの友人のご姉妹が在籍されているという、女性ばかりの劇団の公演があるそうなのです」
「あぁ、それでジャンと」
「はい」
そうだ、明日の服、結局考えていない。
異性とお出かけなんてしたことないから何を着たらいいのかいまいちわからないけど……ワンピースとブーツで大丈夫……かしら?
こんなことならもっと服をそろえておくべきだった。
そんなことを考えていると、シリル様の声が響いた。
「休み、ということは今、時間があるのか?」
「はい、そうですけど……」
「外に行こう」
急に何を言われたのか意味が分からず、私はきょとん、とシリル様の顔を見つめた。
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