嘘を現実に

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「な、何を……っ」  俺が抗議しようと正面を見ると、友香は大粒の涙を流して泣いていた。赤く充血した眼でこちらを睨んでいる。まるで親を殺した仇を見る様な冷たい眼差しだった。 「あんた、紗代に何したのよ」 「紗代?紗代って妹の?」  紗代は友香の妹だ。小学四年生で姉と対象的に落ち着いた子だった。俺にとっても妹のような存在で何度も一緒に遊んであげた。 「とぼけないで!紗代が学校から帰らないって。あんたが誘拐したんでしょっ」  部屋の壁掛け時計を見やる。まもなく二十時になろうとしていた。習い事のない小学生の女児が外を彷徨く時間じゃなかった。紗代は学校帰りに寄り道するような子でもない。 「ちょ、ちょっと待てよ。何で俺が――」 「女の子を誘拐したって言ったじゃない。嘘だと思ってたけどまさかホントだったなんて。よりにもよって紗代に手出すなんて頭おかしいんじゃないの」  俺が嘘を吐いた内容が現実で起こるなんて……、最悪のタイミングだ。  どう釈明したところで友香は聞く耳持たないだろう。それだけ興奮していた。 「わ、分かった。なら川沿いのボロ小屋まで行こう。俺の言った嘘が本当だったら紗代ちゃんはそこに居るはずだろ」  俺達はボロ小屋へ歩いて向かった。小さい時によくお菓子を持ち寄って遊んだ思い出の場所だ。  暗い夜道を懐中電灯片手に歩く俺の後ろを、友香は一定の距離を保って着いて歩いた。刺すような視線が背中に向けられる。軽蔑と剥き出しの警戒心がぴりぴり伝わってくる。気まずい無言の時間は堪えるが、今は誤解を解かないとまともに口もきいてくれない。
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