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私、日野明里。
引っ越しが決まった。
同棲していた彼と別れたからだ。
次に1人で暮らすアパートは、古くて、日当たりはよくないけれど、広さは悪くなかった。そして、家賃も安い。
物が多い私はそこに決めた。早速、1週間後引っ越しした。
私はカラオケ屋でバイトをし、帰宅するのは夜の2時。
でも、そこからも自転車で通える距離だった為、それも良かった。
カラオケ屋から帰る最中、ロータリーがあり、その真ん中に大きな木が植えてある。
霊感のある友達が遊びに来た時、このロータリーを通ったら、「この木、実がなってるみたいに顔が沢山ぶら下がってる」と言われた。
深夜に仕事からそこを通って帰る私にとって、聞きたくない話だったけど、仕方ない。
「お守り持って過ごすことにするよ」と友達に話した。
お守りなんてなかったけど。
それからしばらくして、部屋の中で髪の長い女性を見た。
勿論、私の部屋には私以外誰もいない。
もしかしたら、例のロータリーで連れてきたかと思ったが、何も分からないし、恐怖に震えた。
しかし、その女性は部屋のすみで何をするでもなく、こちらを向いて立っているだけだ。
見た時は、一瞬ドキッとして驚くが、だんだん当たり前のようになり、怖くなくなっていた。
しかし、その女性が以前より頻繁に私の前に現れ近づいている事に気がついていなかった。
ある日、仕事から帰り、洗面台でメイクを落としている時だった。
視線……視線を感じる。
でも、メイク落としを顔に塗っていて、目を開く事ができない。
周りを見る事ができない恐怖。
とにかく顔をを洗わないと。
水道で顔を洗い、目元の泡を落とす。
そして、目を開けると。
横から例の女が覗き混んでいた。
ギョロリとこちらを見ている。
「!!!」
驚きすぎて体が硬直した。
はぁはぁと勝手に息が上がる。
しかし、彼女は何もせずに消えた。
***
私はそのことがあってから彼女の存在が怖くなっていった。
そして、同時に子供が欲しくなり、かと言って赤ちゃんを作れるはずもなく、人形をかった。
何故かお母さんになりたくて、人形に名前をつけた。
優愛。
可愛くて可愛くて仕方なく、眠る時は一緒に眠った。
***
ある時、あの霊感のある友達が遊びに来た。
来た途端「あー…」と声を出す。
「なに?」と振り返ると
「ロータリーから連れて帰ってるねぇ、女の人。小さい子供も亡くしてるよ。最近、明里、人形買ってない?」
「えっ!?買った」
友達はわたしの人形を見て「女の子が、入ってる。女性の霊の子供だね。こどもをあんたと一緒になって可愛がろうとしてるよ。名前はゆあちゃんだって」
「!」
よく考えると、確かに私は部屋にぬいぐるみや人形を置かないタイプ。
なのに、なんで欲しくなったんだろう…
可愛がっていた人形が途端に怖くなってくる。
「人形を知り合いの所でお焚き上げする。母親も一緒に連れてくから安心して」
「う、うん」
「でも、早くこの家早く出てったほうがいいよ、あのロータリーから次から次へとやってくると思う」
「ええっ!引っ越したばかりなのにそんなお金ないよー」
と言うと、「まぁ、そうだよねぇ」とため息をついて、後日お札を送ってくれた。
その後、母子の霊はでなくなったが、お札は徐々に変色し始め、お風呂場に男性の生首が浮いていたり、キッチンでボンヤリとこっちを見ながら立っている血だらけの女の人が出たりとして、怖くなってとうとう我慢できずに引っ越しすることにした。
***
今、私は新しい引っ越し先で、何もなく静かに過ごしている。
数ヶ月後、たまたまその場所を通ってみると、そのアパートは壊されて、更地になり、駐車場になっていた。
でも、変わらず、ロータリの木はそこに立っている。
ここら辺に住む人が、なにもなければいいけど。
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