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第17話 愚直な舞美
飲み物が来たので舞美には一息つけさせ、いったい何があったのか話をさせた。
俺が借金を肩代わりした日、舞美は風俗店を辞めたと言う。次の日にはアルバイトを始めたと連絡が来て、その後様子を見に行き、俺は安心していたつもりだった。
しかし、自分のお節介が舞美を苦しめていたことを、俺は今日の今日まで気づかずにいた。
風俗店を辞めるということは、店に勤める女の子に用意された寮を出なければいけないということだ。つまり、俺が借金を肩代わりした日から舞美は宿無しになってしまった。店からは日払いで現金を貰っていたが、店に紹介したという舞美の知人が中抜きしていたため、舞美に入る金額も微々たるものだった。だから、その時の蓄えなど知れたものだった。
そう。俺のお節介は、僅かばかりのお金しか持たない少女から、住む所さえも奪ってしまっていたのだ。
「どこで寝泊まりしていたんだ?」
「ネカフェとかカラオケとか...ビルの合間とか公園なんか」
「それじゃ...ノラ猫みたいじゃないか」
「大丈夫。前にもそんなことしてたから慣れてるの。でもね、前にツルんでいた奴らの連絡先は全部消したし、悪いことは絶対してないよ」
あっけらかんと言う舞美に俺は言葉を失ってしまった。
「明日、バイト先の給料日なの。だから、今日持っているお金は全部無くなってもいいんだ。直ちゃんに言われたように初めて貯金したよ。たった三千円だけだけどね。でも、そしたら直ちゃんに返せるのがこれだけしかなくなっちゃったの」
そう言って舞美はテーブルの上に置いたお金に目を落とした。
「本当にごめんなさいっ。もっと返さなければいけないことはわかっているのに。来月からシフトも増やしてもらうし、食べ物ももっと節約するから」
「いいんだ...」
「ごめんなさい。あたしバカだから上手くできなくて」
舞美がまた涙声になった。
「舞美、お前はバカじゃない。愚直だ」
「ぐーちょき? じゃんけんみたいだね」
「ぐちょく。バカ正直っていう意味だが、俺は嫌いじゃない。誉め言葉だ」
俺の言葉に嬉しそうにする舞美が、今度は紙切れを渡してきた。
「遅くなってごめんね」
『借用書』
そう書かれているが、中を見ると様式の体を成していない。
それでも俺は黙ってそれを受け取り、そっとポケットにしまった。
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