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第18話 麗子の誘い
「アルバイトはどうしてる? 大変じゃないか?」
「もちろん続けてるよ。大変だけど、楽しいんだよ」
「楽しい?」
「うん。直ちゃんに、『ありがとう』と『すみません』は欠かすなって言われたから、それも守っているの。そしたらね、店長さんとかみんな、舞美のことをいい子だって褒めるんだ。直ちゃんすごいね、魔法の言葉だよ」
「そうか、俺との約束も全部守ってくれているんだな」
「当たり前じゃない。好きな人との約束だよ。命を懸けても守るって言ったでしょ」
俺は自責の念に駆られる。まるで偽善か自己満足じゃないか。
俺はこの子のことを助けたつもりでいたが、本当に良かったのだろうか。
俺がこの子を苦しめたばかりか、約束を課すことで、そこから逃げ出すという退路まで絶ってしまっているのではないか。
それでも、目の前の屈託のない笑顔が俺を救ってくれる。
「そうだ、俺たち食事するつもりだったんだ。舞美もなにか食べるか? 好きなものを頼んでいいぞ」
「本当?」
「遠慮するな。大盛りにするか?」
「ううん、少な目でいい。たくさんだとお腹が受け付けないから」
隣を見ると、俺たちの会話を黙って聞いていた麗子が嗚咽していた。そして初めて口を開いた。
「舞美ちゃん。ごめんなさい」
「え?」
「直さんからあなたのことを聞いた時に、きっとお金をたかりに来たんだろうと思ったの。でもまったくの誤解ね。本当にごめんなさい」
「いいの、いいの。あたし悪いことしてたし、そう思われるの慣れているから」
「あなた、笑うとすごく可愛いわね」
「へへへ、ありがと」
「こんな若くて可愛い子が、歯を食いしばって生きるようなことをしちゃいけない。いいえ、私たちがさせちゃいけないって思うの」
「それで相談だけどね。よかったら私の家に来ない?」
そう言いながら、麗子は俺と舞美の表情を伺った。
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