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第2話 自称死神の登場
「へ? 死神!?」
思わず変な声が出てしまった。
「死神って...あの、大鎌を持っていて、人の命を刈り取る死神?」
「はい、その死神です」
「いやいやいや~ それはナイナイ。だって大鎌持ってないじゃないですか」
「あんな物騒なもの、いつも出していたら怖すぎるでしょ」
男をじーっと見たが、いたって真顔だ。
そうか、墓前で落ち込んでいる俺を見て、和まそうと思ったんだな。
まぁ、こんな場所で言うには質の悪い冗談だが。
冴えない顔つきをしているが、悪い奴じゃないのかもしれない。
そう思った途端、俺の口元が緩んだ。
「ふふふ、くだらない冗談だ...」
妻が逝ってもう半年。会社を辞め、廻りからの慰めの言葉も心に届かず、笑うことも忘れた。月命日にここへ来ることだけが俺の役目で、そのくせ妻との思い出に圧し潰されそうになっている。
そんな抜け殻のような生活を送っていた俺が、不覚にもこんなレベルの低い作り話に笑ってしまった。そんな俺の表情の変化を読み取ってか、男がドヤ顔を返す。
「信じていただけますか?」
「いきなり死神だなんて言われて、素直に信じるわけないだろ」
「ですよね~」
家へ帰っても何をすることもない。時間潰しだと思って、自称『死神』のこの男の作り話に少しだけ付き合おう。
「で、今日は俺の命を刈りに来たのか?」
「いえいえ、とんでもありません。今日はオフなんです」
「死神がオフって...生きている人間を殺すのが死神だろ、その死神がなんで亡くなった人が眠っているお寺にいるんだ?」
男は、悲しそうな目で俺のことを見つめる。
「死神が人間を殺すですって? それは誤解です。死神が人間を殺すのではなく、人間が死ぬから、最後のお手伝いに死神が現れるんです」
「なるほど」
「人間が死ぬ間際に、命を刈り取るのが死神の役目なんです。わたくしは、その人ができるだけ苦しまないように、丁寧に刈り取ることを心がけています。それでもやはりその後が気になりますので、こうしてお寺に来て、その人の魂が安らかに眠っているかを確認しているのです」
「アフターフォローって訳だ。じゃ、評判いいだろ?」
「いいえ、死神には星いくつなんて評価も、口コミもありませんので」
「なぁ、俺の妻の魂はどうだい? 安らかに眠っているのかい?」
「すみません、奥様はわたくしの担当ではなかったもので。死神は自分が刈り取った人間の魂しか確認ができないのです。申し訳ありません」
「いや、いいんだ。死神っていうのは、大変な仕事なんだな」
「はい。でも、わたくしは『死神』という仕事に誇りを持っているんです」
「自分の仕事にプライドを持つのはいいことだ」
「ありがとうございます。しかし、いくらいい仕事をしてもリピーターも付かないし、人殺しだと思われて因果な仕事なんですけどね...結構へこむ事も多いんですよ」
自分のことを『死神』だと名乗る男は、物憂げな表情をした。
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