第21話 大内 結花 -後-

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第21話 大内 結花 -後-

女性の名前は大内(おおうち) 結花(ゆか)、二十八歳。 高校生の時に不慮の事故で両親が他界して、叔母の家に引き取ってもらったが、その家で血縁関係のない叔父から性被害を受けた。それでも我慢を重ねて、高校卒業を待って服飾系の専門学校へ進学するという名目で、叔母の家を出て上京した。 専門学校も無事卒業し、アパレル関係の会社へ就職したが、彼女の運命を変えてしまったのは、モデルのスカウトだと名乗る男だった。 職業柄、メイクやファッションに気を使う必要があるが、それらは決して安くはない。都会で一人暮らしをしている女性には、やはり収入が不足していた。 ある時、街中を歩いていると、オシャレなスーツを着た男性が声をかけてきた。副業としてモデルをやらないかと言ってきたのだ。自分たちの事務所は芸能界にコネクションがあるとか、君の容姿なら絶対成功するなどと言葉巧みに誘う。 生活に足りないお金は風俗店や夜の商売などで補おうかとまで考えていた結花には十分魅力的な話だった。 どうしても日の当たる所へ出たいわけではないが、『モデル』という言葉の響きが結花から冷静な判断を欠かせた。 だが、現実は決して甘くはなかった。 いかがわしい服装をしての写真撮影会。お触り上等の、品のない酔っ払い相手のコンパニオン。セミヌードになって風俗店のすげ替え写真用のモデル。表に出ない仕事はどんどんエスカレートしていった。しかも、その頃には結花を事務所に縛り付けるために、せっかく就職した会社も強制的に辞めさせられていた。 事務所にとって、顔立ちの整ってスタイルの良い結花(おんな)でしかなかったのだ。 結花が『話が違う、辞めたい』と言うと、『誰もファッションモデルなどと言っていない』と逆に責められ、おまけに契約書をたてにして、辞めるなら違約金を払えと言われた。その違約金も到底払える金額ではなかった。 住んでいる所もバレているので、家へ戻るのが怖い。高校の時の嫌な記憶もあり、人間不信、男性不信になりそうだとも言った。それでもギリギリ精神状態を保てていたのは、幸いにも男たちに性被害を受けなかったからだが、最近になり性接待も(ほの)めかしてきていると言う。 「一人でいるのも怖いし、人中に行くのも怖い?」 「はい」 「それなら、私の家に来ない? すぐ近くなの。お茶でもしましょう」 そう言って麗子は結花の肩にそっと手を置いた。
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