第3話 死神の名はケージ

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第3話 死神の名はケージ

俺は、この男の言うことなど1ミリも信じるつもりはないが、何を聞いても若干の感情を見せながら淀みなく答える様子に感心した。と同時に、少し興味を持った。 いくら嘘を並び立てるにしても、遠くの星からやってきたと言うアイドルや、前世が武将だとか貴族だとか言う芸能人などとは違う。まるで筋金入りの詐欺師のように人を惹き付ける力がある。 俺だって仕事柄、数えきれないほど交渉の場についたことはある。こいつに質問を重ね、論理破綻させてやろう。ふと、意地悪な気持ちが沸いてきた。 「俺の妻はあんたの担当じゃないと言ったが、死神って何人(何体?)もいるのかい?」 「はい、たくさんいますよ」 「じゃ、どうやって役割分担を決めているの?」 「役割分担はありません。人間が死ぬ直前に、微弱なオーラのようなものを出すので、それに反応した死神がそこへ現れます。ですので、基本的には早い者勝ちです。あとは若干の力関係(パワーバランス)といったところでしょうか」 「力関係?」 「はい、多少遅れたとしても、後から来た死神のほうが(ランク)が上の場合は譲るとか」 「死神に位なんてあるんだな。あんたは丁寧な仕事をしているんだったら、位は高いんじゃないのか?」 「いえいえ、まったく逆です。丁寧過ぎて効率が悪いと言うか、実績が伴わないと言うか...自分、不器用ですから」 「働きすぎはよくないが、それならオフにしてこんな所(お寺)にいる場合じゃないだろ。もっと実績を上げないと」 ついつい本気になって説教みたいなことを言ってしまった。 「そうですよね。それはわかっているのですが、ここへ来て魂の様子を確認することで自分のやっていることは間違っていないと再認識しているのです」 そう言う男の姿を見て、さっき芽生えた(よこし)まな心は萎んでしまった。こいつはきっと会社で苦労をしているんだろう。そんなストレスを発散させるために、誰にも迷惑をかけずにことを、俺がとやかく言える権利はない。 「ところで死神に名前はあるのかい?」 「あっ、申し遅れました。わたくしは、『ケーディー・ハンナ・ザンヴァルゲッド・ズヴァヌ』と申します」 「覚えきれないな、『ケージ』でいいか」 「同僚のように『K』とイニシャルで呼ばれるよりカッコいいです」 「じゃ、ケージ、他の死神に負けないようにがんばってな!」 そう言って立ち去ろうとした俺の前を、男が慌てるように立ち塞いだ。 「ちょちょちょっ、ちょっと待ってくださいっ」 「面白い話をありがとな。久しぶりに気分転換ができた。俺は帰るよ」 「だめです、まだ本題が残っているじゃないですか。直江(なおえ) (まこと) 様!」 (え? 何、本題って? しかも、俺の名前(フルネーム)まで知ってる)
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