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第4話 ケージからの申し出
どこで俺の名前を知ったんだろう。苗字だけなら墓石を見ればわかるだろうが。コイツ、本当はヤバイ奴かもしれない。突き放して帰っても何をされるかわからない。仕方がない、あと少しだけ適当にあしらってから帰るとしよう。
「え~っと、本題ってなんのことかな?」
「先ほど、奥様との思い出に苦しんでいるとおっしゃいましたよね」
「妻との思い出に圧し潰されそうだって...確かにそう言った」
男がニヤリと笑った。
「貴方の記憶を消し去ります。その記憶をわたくしにいただけませんか、というご相談なのです」
記憶をいただくって?
どういう意味だ??
いったい、こいつは何を言っているんだ。
ヤバイ奴を通り越して危ない奴じゃん!
「わたくし、実は趣味がありまして。人間の記憶・・・つまり、思い出をコレクションしているのです」
「そんなことができるのか?」
「はい。人間の頭の中の記憶をわたくしに移すのです」
もう理解不能。
こいつ、危ない奴どころじゃない。怖い奴だ。
こんな話とっとと終わらせないと。
「いったい、そのコレクションってのは、何に使うんだ?」
「コレクションした人間の思い出は、わたくしがいつでも見たり聞いたりすることができるのです」
「そんな目的で! そんなことをして楽しいのか?」
「人間の記憶をバーチャル体験できるんですよ。まさに思い出のサブスク。こんな楽しいストレス解消法はなかなかありません」
目の前の背の低い男を見る。こいつの本意を探ろうと無言でいる俺に、逡巡しているとでも思ったのか、死神のケージはとんでもない条件を提示してきた。
「奥様との思い出をいただけたら、お礼として、どんなことでも一つだけ望みを叶えて差し上げましょう」
そう言ってこいつは、またニヤリと笑った。
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