0人が本棚に入れています
本棚に追加
第5話 死神との契約
「どんなことでも望みが叶うだと!?」
「はい。不老不死とか地球滅亡などと言った、現実的でない願いでなければなんでも」
「念のため確認したいが、妻との思い出が消えたら、俺がここへ来る意味もなくなってしまうのか?」
「いえいえ、貴方が奥様と結婚された事、奥様が亡くなった事などは思い出というより事実です。そういう事実まで無いものになるわけではありません。ですので、貴方が今まで通りに奥様の死を悼み、ここへ来ることに意味がなくなるわけではありません」
「わかった、わかった。じゃ、望みを言おう」
本当はわかってなんかいない。ただ面倒になっただけだ。これ以上こいつに付き合っていたら、こっちの頭までおかしくなってしまいそうだ。記憶を消すなんてことができるわけがない。催眠術の真似事なのかもしれないが、記憶が消えたフリでもすればいい。
「で、お望みはどうされます?」
「俺をモテ男にしてくれ」
「え!? いいのですか、奥様のことは...」
こいつ、なにを本気になって心配しているんだ。
「俺の人生は妻と一緒にあったと言っても過言じゃない。妻との思い出が消えてしまうんだったら、この場で俺の人生は終わったも同然だ。別に新しい伴侶が欲しいというわけでもないが、生まれ変わったつもりで違う人生、つまりセカンドライフを送ってみたい」
ふふふ、我ながらいいアイデアを思い付いた。モテるとかモテないといったものは感覚的なものだ。俺がモテるようになったと言えばそれで済む話。こいつの逃げ道として、少しくらい余白を用意しておけばいい。
「できるのか?」
「もちろん! 承知いたしました」
「で、どうすればいいんだ? 変な薬を飲むとかお断りだぞ」
「いえいえ、そんな面倒はことはしません。わたくしたちが契約をするだけです」
「契約?」
「はい、お互いが自分のすることを言って、その後に同時に『契約』と言うだけです」
「わかった。俺は、妻との思い出をケージに差し出そう」
「わたくしは、直江誠 様をモテ男にします」
「契約/契約」
これから死神に会うかもしれない人に、ひとつだけアドバイスを送りたい
死神から契約を持ちかけられたら慎重になったほうがいい。
なぜなら、死神との契約は確実に実行されるものだから。
最初のコメントを投稿しよう!