第5話 死神との契約

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第5話 死神との契約

「どんなことでも望みが叶うだと!?」 「はい。不老不死とか地球滅亡などと言った、現実的でない願いでなければなんでも」 「念のため確認したいが、妻との思い出が消えたら、俺がここへ来る意味もなくなってしまうのか?」 「いえいえ、貴方が奥様と結婚された事、奥様が亡くなった事などは思い出というより事実です。そういう事実まで無いものになるわけではありません。ですので、貴方が今まで通りに奥様の死を悼み、ここへ来ることに意味がなくなるわけではありません」 「わかった、わかった。じゃ、望みを言おう」 本当はわかってなんかいない。ただ面倒になっただけだ。これ以上こいつに付き合っていたら、こっちの頭までおかしくなってしまいそうだ。記憶を消すなんてことができるわけがない。催眠術の真似事なのかもしれないが、記憶が消えたフリでもすればいい。 「で、お望みはどうされます?」 「俺をモテ(おとこ)にしてくれ」 「え!? いいのですか、奥様のことは...」 こいつ、なにを本気になって心配しているんだ。 「俺の人生は妻と一緒にあったと言っても過言じゃない。妻との思い出が消えてしまうんだったら、この場で俺の人生は終わったも同然だ。別に新しい伴侶が欲しいというわけでもないが、生まれ変わったつもりで違う人生、つまりセカンドライフを送ってみたい」 ふふふ、我ながらいいアイデアを思い付いた。モテるとかモテないといったものは感覚的なものだ。俺がモテるようになったと言えばそれで済む話。こいつの逃げ道として、少しくらい余白を用意しておけばいい。 「できるのか?」 「もちろん! 承知いたしました」 「で、どうすればいいんだ? 変な薬を飲むとかお断りだぞ」 「いえいえ、そんな面倒はことはしません。わたくしたちが契約をするだけです」 「契約?」 「はい、お互いが自分のすることを言って、その後に同時に『契約』と言うだけです」 「わかった。俺は、妻との思い出をケージに差し出そう」 「わたくしは、直江誠(なおえ まこと) 様をモテ男にします」 「契約/契約」 これから死神に会うかもしれない人に、ひとつだけアドバイスを送りたい 死神から契約を持ちかけられたら慎重になったほうがいい。 なぜなら、死神との契約は確実に実行されるものだから。
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