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寝苦しさに目を覚ましたAさんは、襖から漏れ出る灯りを見て瞼を擦った。襖を隔てた隣室から漏れ聞こえる話し声に、それが両親達の声であることを確認したAさんは、喉でも潤そうと寝ていた布団から上半身を起こした。
そこで初めて、目線の高さに位置する窓から外の景色が視界に入ったAさんは、列を成して歩く人影に気付いたのだそうだ。
「それが葬儀の列だってことには、直ぐに気付いたんです。何度か見たことがありましたから。……でも、こんな夜更けに葬儀をするだなんて、少し妙だなとは思ったんです。枕元に置いてあった時計は、確かに夜中のニ時を回っていましたから」
そんな多少の違和感を感じながらも、まだ子供だった当時のAさんは、きっと今までは寝ていて知らなかっただけなのだと、あまり深く考えることなくそう思い至ったのだそうだ。
日中に見た時と違って、どこか禍々しい雰囲気のようなものを纏った行列。その姿に妙に心惹かれたAさんは、窓辺に手を掛けると物珍し気にその様子を覗き込んだ。
暗がりの中浮かび上がる灯籠は、まるで人魂のように青白く揺らめき、その怪しさをより一層際立たせた。それほど遠く離れた距離に居るわけでもないのに、何故か参列者の顔だけはよく見えず、まるで黒く塗り潰されたかのようだった。
「お面のようなものでも付けているかのかと思いました。それほど真っ黒だったんです、顔の部分だけが」
神妙なお面持ちでそう告げたAさんは、その視線をテーブルへと落とすと固く握った自分の両手を見つめた。
「それで、その行列はどうなったんですか?」
「それから暫く見ていたんですが、まるで暗闇に吸い込まれるようにしてその場から姿を消してしまいました。……今にして思えば、静かすぎたんです。あんなに大勢の人達が列を成していたのに、足音一つ聞こえませんでしたから」
小さく声を震わせたAさんは、その視線を私へと戻すと再び口を開いた。
「でも、その時の私はそんなことにさえ気付けませんでした。まるで何かに取り憑かれたかのように、その行列に魅了されてしまっていたんです」
そう告げたAさんの顔はどこか鬼気迫るものがあり、私はゴクリと喉を鳴らすと話しの続きに耳を傾けた。
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