野辺送り

2/5
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
 ──野辺送り。  私がその風習に興味を持ったのは、ハロウィンの仮装で街中が埋め尽くされる中、偶然その姿を見掛けたことがきっかけだった。  繁華街から遠く離れた(さび)れた商店街で、数十人程の列をなして歩く和服姿の人々。その姿はとても異様で(おぞ)ましく、私は思わず息を呑むとその場で足を止めた。といっても、都会育ちの私にはそれが何の仮装をしているのかすぐには理解することができず、一瞬、嫁入り行列のようなものなのかと誤認してしまっていた。  けれど、よくよく見てみると花嫁らしき人の姿はどこにも見当たらず、何やら棺のようなものを運んでいる。それを改めて確認した後に、私は初めてそれが葬儀の列であるということを理解した。  何故、ハロウィンの仮装で葬儀の行列などしようと思ったのか。そんな疑問を感じながらも、初めて目にするその異様な光景を前に、私は気付けばすっかりと心を奪われてしまっていた。  霊柩車(れいきゅうしゃ)の普及に伴い、現代では滅多に見かけることのなくなった“野辺送り”。そんな過去の風習にいたく関心を寄せた私は、ちょうど来月刊行の特集記事を任されていたこともあり、そこで野辺送りについての記事を取り上げることにしてみた。  翌日から早速資料集めを開始した私は、それと並行して聞き取り取材を進めてゆくと、いくつかの体験談も入手することができた。  けれど、その体験談はどれも資料通りのもので、どこか非凡さに欠けている。担当しているのが心霊雑誌ということもあって、このままでは特集自体がボツになってしまうのでは──。そんな可能性を危惧して一人焦り始めた頃、幸運にも出会うこととなったのは、知人から紹介されたAさんという二十代の女性だった。 「子供の頃に見たことがあるんです。でも、あまりにも恐ろしくて……今まで、誰にも話したことがないんです」  そう言って話しを切り出したAさんは、テーブルに置いた両手をキュッと握りしめると、ゆっくりとした口調で語り始めた。 「あれはまだ、私が地元に住んでいた小学一年生だった頃のことです。夏休みも残り僅かとなった、まだ蒸し暑さの残る夜のことでした──」
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!