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「二つ隣の家に住んでいるKさんが亡くなったと知ったのは、翌日の朝でした。長いこと病気で臥せっていたんですが、どうやら夜中の内に急変したようで、そのまま亡くなってしまったみたいでした。夜中に両親の声が聞こえたのも、きっとその知らせを聞いていたんだと思います」
普段からKさんと親交の深かったAさんの家では、その手続きや葬儀の手伝いやらで、翌日は慌ただしい一日を過ごすこととなった。
その忙しさは夜が更けてからも続き、襖から漏れ出る隣室の灯りを眺めながら、Aさんは一人、眠れぬ夜を過ごしていた。
「そんな時──ふと、妙な気配を感じたんです」
吸い寄せられるようにして窓へと近付いたAさんは、そこで、前日の夜に見たものと全く同じと思われる、禍々しい雰囲気を纏った行列を目にしたのだそうだ。
「勿論、とても怖かったです。その証拠に、私の両手はとても震えていましたから。二日も連続して夜更けに野辺送りの行列を見るだなんて、そんな偶然はそうそうないですから。Kさんが亡くなったことと何か関係があるのか……そう思わなかったかといえば、嘘になります。でも、それ以上にあの行列に心を惹かれてしまっていたんです」
カタカタと震える両手で窓枠を掴みながらも、Aさんはその行列から視線を逸らすことなく凝視した。やはり、前日に見た時と同じく、足音一つ立てずに進んでゆくその姿は、それはとても異様で恐ろしかったそうだ。
けれど、何かに取り憑かれたかのようにその場を離れることのできなかったAさんは、ただ静かに、その様子を眺めながら固唾を飲んでいた。
「ちょうどその時です。その内の一人が、私に気付いてこっちに顔を向けたのは──。あれは、お面なんかじゃなかったんです。顔が……っ、無かったんです」
Aさんを見つめているのであろうその顔は、渦を巻いたようなドス黒い空間が存在するだけで、とても人の顔とは思えぬほどの恐ろしさだった。きっと、他の参列者も皆同じなのだろう。Aさんは瞬時にそう思ったのだそうだ。
けれど、その事実を前にしても尚、その行列から視線を逸らすことのできなかったAさんは、カタカタと全身を震わせながらその光景に釘付けになった。
「──見たらいかん!」
そんなAさんを勢いよく窓から引き離したのは、一緒に暮らす祖父だったそうだ。
「なんべん見た!? ……手を見せや!」
その剣幕に成すすべなく左手を取られたAさんは、初めてみる荒々しい祖父の姿を見て涙を流した。
その様子に気付いてすぐに駆けつけた両親は、泣き喚くAさんを抱きしめると何やら祖父と言い争っているようだった。けれど、その時の記憶はとても曖昧らしく、あの時祖父達が何を話していたのか、その後どうしたのか、Aさんは全く覚えていないのだそうだ。
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