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 小学生の頃に流行った占い本のフローチャートは質問にYesとNoで答えていく形式のものだった。何故かどの本を見ても終盤に入っていたのは「自分のためにラブソングを歌ってほしい?」という設問。 「何ソレ。寒」  私は毎回、内心バカにしながら迷うことなくNoの選択肢に進んでいた。だってラブソングなんて小っ恥ずかしい。 *  時は流れ202X年。  今、世間は空前絶後のラブソングブームに包まれていた。インド映画や韓流アイドル由来のダンスで気持ちや感情を伝えるというムーブから派生して、歌で気持ちを伝えるのが昨今のトレンドだ。  しかもただのラブソングじゃない。”オリジナル”ラブソングだ。 「♪君の前歯になりたい〜 君が採り入れる全てを検閲したい〜」 「♪女神のようなあなたに〜 踏まれて目覚めた愛の形〜」  老若男女問わず、好き勝手なメロディに合わせて誰かを賞賛する歌を歌い出す。  婚約指輪よりも愛を示す方法として一般化したのがラブソングだって、誰が想像しただろう。 (歌うなよ。絶対に歌うなよ) 「♪気の強い君の二つの眼に〜」 「別れよ」  私は2ヶ月付き合った彼だろうと歌い出すならば即お別れした。 (どうしてこんなことに......)  私のラブソングを歌って欲しくないという細やかな願いは、今一番叶え難い願いになっていた。 * 「ラブソングを歌わないで欲しいの」 「うん、俺もこの文化はどうかと思ってたんだ。絶対に俺はラブソングを歌わないから安心して」  元カレと別れた理由も話して、付き合い出したのが今の彼。次こそは本命だと思っているし、今までにないくらい愛している。  それなのに、今、私は猛烈に後悔していた。 (ねぇ、なんで。なんでなの)  オリジナルラブソングを歌ってほしいなんて馬鹿みたい。自意識過剰で、恋に溺れていて、愚かな女って感じ。  それなのに。 (あなたにだけには歌って欲しいとか、そんなこと思うようになるなんて)  彼との恋は今までとは少し違うように感じる。彼が私のどこを好いているかについてその厚い唇で甘く歌って欲しいだなんて、過去の私は思いもしなかった。 (今更ラブソングを歌ってなんて、絶対に言えない。言えないのに)  今日も私は彼に本音を言えないまま。  他のカップルへの嫉妬でおかしくなっちゃう前に、早くこのブームが過ぎ去りますように。 ーーおわり
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