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「……え? なにそれ、嫌いだなんて思ってない」
「いいよ、嘘なんかつかなくて」
「嘘じゃない。そんな風に思ったこと、一回もない」
「…………」
怒っているとも取れる表情で、朝陽が強いまなざしを向けてくる。
嫌いじゃなかった? 本当に?
一瞬胸が明るくなるが、いやまさかと頭を小さく横に振る。もう何年も嫌われていると思ってきたから、そうすんなりとは飲みこめない。
「でも朝陽、ずっとオレのこと避けてただろ。朝陽が中学生になった夏の……あー、いや」
思わず口から出てしまったそれを、恭生はすぐに後悔した。出来ることならあの夏のことは、もう朝陽に思い出してほしくなかったからだ。
「それは……」
「オレはさ、朝陽とたくさん会えるんなら、すげー嬉しいよ。でもそんなの、朝陽にはメリットないじゃん」
なにか言いかけた朝陽を遮る。うっかりすれば泣いてしまいそうで、誤魔化すように捲し立てる。
「あるよ」
だが朝陽も、負けじと目尻をとがらせる。
「……どんな?」
「それは……内緒」
「は、なんだそれ。朝陽、別に男が好きなわけでもないだろ」
「……うん、そうじゃない」
「だよな」
話せば話すほど、朝陽が遠くなる。朝陽に寄り添いたいのに、その寄り添うべき心が見えない。
前髪を握りこみ、ため息として届かないように細く息を吐く。すると、顔を覗きこむようにして名前を呼ばれる。
「ねえ、恭兄」
「……なに?」
「俺と付き合ったら分かる、って言ったら? 恭兄のおじいちゃんが言ってた意味」
「……は?」
「大切な人が先に死んでよかった、がどういうことなのか。俺、分かってると思う」
「は? うそ……」
「ほんと。おじいちゃんに確かめられるわけじゃないから、もちろん憶測ではあるけど。こういう意味だろうな、ってのはある」
「マジ?」
「うん。すごく幸せな意味なんだと思う」
「……んだそれ」
「付き合う理由はそれじゃだめ? 知りたいんだろ、おじいちゃんの気持ち」
「それは……」
朝陽の真剣な表情に、嘘はひとつも見えない。
祖父とのあの会話から、もう10年以上経っている。恭生は未だに呪縛のように囚われているというのに、朝陽には意味が分かるというのか。しかも、それを幸せだと呼べるような。
理解できる糸口が見つかるなんて、考えたこともなかった。知りたい欲求は、抑えようにも溢れ出してくる。
「……朝陽と付き合ったら、オレにも分かるんだ?」
「うん」
「なんで?」
「それも……内緒」
「なんだよそれー……」
「全部種明かししたら、付き合ってもらえなさそうだから」
「…………」
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