かわいい弟

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かわいい弟

 朝陽との恋人“カッコカリ”な関係がスタートし、恭生の日常は一変した。  朝起きたらおはようと朝陽にメッセージを送る。きちんと返事が返ってくる。昼飯だとか道端で見かけた猫だとかの他愛のないやり取りに、おやすみだって言い合える。  一日のそこかしこで朝陽の存在を感じていられる意味は、とても大きい。だって連絡できるのは今まで振られた時だけで、返信すらなかったのだ。胸が躍るのを抑えることなんてできない。  それから、毎週のようにふたりで会うようになった。お互いの仕事と大学が終わった後、朝陽のバイトがない日。多くて3回会った週もある。  行き先は、映画館や書店など。カフェで洒落たドリンクを飲んだり、話すだけで楽しくてただ街をフラフラ歩いた日もあった。  夕方に待ち合わせをして、夕飯を食べて解散がお決まりのコース。朝陽曰くこれはデートで、受け身でいてと先日言われた通り、お誘いから全て朝陽に任せ、エスコートされている。  毎日きちんと実家に帰宅する朝陽だからタイムリミットはあるが、疎遠だった今までに比べれば充分すぎるほどだ。嫌われたと感じたあの夏からの数年と比べたら、180度変わった。     「あ、恭兄。あそこのゲーセン寄っていい?」 「お、いいな。オレも久々に行きたい」  今日も今日とて待ち合わせをし、つい先ほど夕飯を済ませたところだ。  夕飯のお代はいつも恭生が支払っていて、朝陽は律義に毎回申し訳なさそうにする。そんな顔をされると胸が痛むのだが、相手は大学生だ。こればかりは譲る気はない。 「……ん? ちょ、朝陽待った!」 「なに?」 「なあこれ! な!?」  視界に飛びこんできたものに、恭生は急ブレーキをかけた。先を歩いていた朝陽のシャツを掴み、引き止める。興奮のあまり、言葉が続かない。 「うわ、めっちゃ似てる」  だが朝陽は、恭生の言いたいことをすぐに分かってくれた。  今ふたりが立っているのは、クレーンゲームの前だ。景品は、手のひらサイズのぬいぐるみキーホルダー。数種類の動物がラインナップされた中に、うさぎと犬もある。その二種が、祖父からもらったあのぬいぐるみたちにそっくりだった。
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