かわいい弟

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 朝陽に連れられ向かった先は、全個室の小洒落た居酒屋だった。ふたりきりの空間で、シャンパンで乾杯。朝陽の二十歳の誕生日を盛大に祝いたかったなと心の中で悔やみつつ、幼なじみと初めて酌み交わすアルコールには感慨深いものがあった。  とびきり美味しい料理、名前の入ったバースデープレート。全て、朝陽が今日この日のために用意してくれたのだ。うっかり泣いてしまいそうで、必死に堪えたのだが。誕生日プレゼントにとキーケースをもらった瞬間に、努力の甲斐もむなしく結局涙は零れてしまった。こっそり拭ったから、朝陽にはバレていないと思いたい。     「朝陽~、さっきの店めっちゃ美味かった!」 「喜んでもらえてよかった。恭兄、もしかして酔ってる?」 「えー? ううん、酔ってない」 「ほんとかな」 「ほんとほんと。朝陽は? 酔ってる?」 「俺は多分ザル」 「うわマジか。それにしてもさっきの店、雰囲気も最高だったなあ。よく見つけたな」 「リサーチしたんで」 「あー、本当にうれしい。なあ朝陽、やっぱりお金……」 「だめ。今日だけは絶対に受け取らないから。なんで主役がお金出すんだよ」 「……ん、そっか。分かった。ありがとう」  ディナーを楽しんだ帰り、今は恭生のアパートへと最寄り駅から歩いているところだ。神奈川へと帰る朝陽を恭生こそ見送りたいのだが、朝陽はいつも「恭兄を送るところまでがデートだから」と言ってきかない。  だが今日に限っては、こうして送ってもらえることを素直にありがたく受け取っている。年に一度の誕生日を久しぶりに朝陽と過ごせて、どうにも離れがたい。 「あーあ。今日終わんのもったいない感じする」 「うん、俺も」 「朝陽も? ……なあ朝陽、今日も部屋上がってかない?」 「……うん、上がんない」  だが朝陽は、恭生の誘いをやはり受け入れてはくれない。  会う度にお茶でもどうだと誘っているのだが、朝陽はあの日以来、一度も部屋までは来ていない。終電が気になって、落ち着かないとのことだ。気持ちは分からないでもないが、一分でも長く一緒にいたいのに、と少し面白くない。  泊まってくれたって構わないのだが、両親へ心配をかけたくないのだろうと、提案することすらできないでいる。 「だよな、残念。あ、そういえばさ。もしかして、昼間もどこか予約してた?」 「いや、予約はしてなかった」 「そっか、よかった。ちなみにどこに行くつもりだったんだ?」 「水族館」 「水族館? 朝陽、魚とか好きだったっけ」 「いや別に。でも、デートって感じするかなって」 「……ふっ」  笑ってはいけない、そう強く思いはしたのだが。恭生はつい、小さく笑ってしまった。聞かれていませんようにと願ったって、ジトリとした目が恭生を映していて、もう遅い。 「恭兄……?」 「いや違う、ごめん」 「違わないし。笑ってんじゃん」 「ごめんって! だって朝陽、かわいくて」 「……なんだよそれ」  アパート前に到着して、人通りのない狭い道で立ち止まる。朝陽の機嫌を損ねてしまったと焦りがあるのに、その表情すらかわいいと感じてしまうのだから、我ながらタチが悪いなと恭生は思う。 「だってさ、朝陽、付き合うのオレが初めてってわけじゃないだろ?」 「……え?」
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