恋人カッコカリ

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 待ち合わせに指定された駅前で、別れを切り出す彼女を目の前にただただそう思った。分かった、と了承すれば「そう言うと思った」と苦笑いされる。これもいつものことだ。  ――あなたは優しすぎる。隙がない。ねえ、本当に私のこと好きだった?  振られる時の決まり文句も、例に漏れず飛んできた。  恋愛はもうずっと受け身だ。好きだと告白されれば、フリーなら断ることなく受け入れて。それでも自分なりに、大切にしているつもりなのだけれど。  なぜ誰もがそう言って離れていってしまうのか、未だによく分かっていない。そんなところが問題なのだろうとも思うし、でも、と歯噛みする自分もいる。  優しくしてなにが悪いのか。好意ならゆっくりと育っていたと思う。隙なんて、見せないほうがいいだろう。  自分でした選択は、よくも悪くも自分に返ってくる。気に召さないことをしでかしたなら、ろくでもない男だと烙印を押すのだろうに。  恭生なりに相手のことを考えて、かつ自分のためでもある行動を取ってきた。それが不満だと愛想を尽かされるのなら、恋愛は向いていないのかもしれない。  重たいため息をアスファルトに吐いて、ひとり暮らしをしているアパートとは反対方向の電車に乗りこむ。混み合う車内で押しつぶされながら、メッセージアプリの履歴をぐんぐんと下へスクロールする。やっとのことで探し出した相手は、ただひとりの幼なじみだ。 <今さっき振られました。大学近くの食堂に行きます>  以前のやり取りからすでに一年が経とうとしていて、けれど前回とほぼ同じメッセージを送信する。そうしてすぐに、スマートフォンをパンツのポケットに仕舞う。どうせ返事は返ってこない。  やるせなさに、車窓にゴツンと額をぶつける。センターパートの前髪が崩れるのも気にせず、右手でくしゃりと握りこんだ。
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