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「おーい朝陽、そろそろ起きろー。今日一限からって言ってたろ」
「んー……」
味噌汁に乾燥わかめを入れながら、ベッドから出てこない朝陽に声をかける。
朝陽は特別朝に弱いわけではないが、昨夜も遅くまでカメラを構えていたようだ。無理はしてほしくなくても、思う存分夢を追えているのだと輝く瞳を見たら、背中を押す選択しか恭生にはない。
ローテーブルに朝食を並べ終えた後、ベッドに腰かけ朝陽の頬を指先でつつく。
「あーさーひー。朝ごはん食べないの?」
「……んー、食べる」
返事をしながらも、朝陽は恭生の枕を抱きしめてまた眠ろうとしている。
朝陽の新品の布団は結局、開封されることもないまま部屋の隅に立てかけられている。どうしても一緒に寝たいと朝陽が言うのだ。ちいさい頃みたいにねだられるのを、恭生が無下にできるはずもない。
セミダブルのベッドに大の男ふたりで寝るのは、正直狭い。それに恋人同士になったのだから、肌を寄せて眠るのは恭生にしてみれば落ち着かないのだけれど。触れるだけのキス以上のことはしないまま、毎日を過ごしている。
今はただ、ふたりでいられることへの幸福感が恭生を満たしている。離れていた数年が、瞬間瞬間を煌めかせている。弟への愛は恋を帯びたばかりで、朝陽のペースに合わせて、少しずつ育んでいきたい。
だが、いつの日か……と、朝陽ともっと深い恋人になれる日を夢見てもいる。過去の恋人とのスキンシップは、積極的にはなれなかったのに。今や覚えたての恋にはしゃぐ少年のようで、そんな自分に戸惑いもするけれど。
朝陽は自分が初の恋人だ。その時が来たらリードしてやらなければ、と密かに考えている。
「あーあ、先にひとりで食べようかなあ」
「……だめ。起きる、起きた」
「はは、おはよう」
ようやくベッドを出た朝陽と、向かいあって腰を下ろす。眠たげな目が、朝食を見ると少し見開かれて、そして弧を描く。
ひとりだった時は適当に済ませた朝食だが、これを見たいがためにちゃんと食べるようになった。
「朝陽、今日はバイトだっけ」
「ううん、休み。恭兄はお店の人と飲みだよね」
「うん。夕飯、ひとりにしてごめんな」
「そんなんで謝らないでよ、ひとりでだって食べられるし。それに、俺ももっと料理できるようになりたいから、作ってみる。まあ、まだ下手だけど」
「そっか」
ひとつの家で暮らしているから、またここで必ず顔を合わせられる。その事実を何度だって噛みしめてしまう。
恋なんてこりごりだ。そう思ったのが嘘みたいに、朝陽への恋心が恭生を充実させている。
「ふ」
「どしたの?」
「いや、なんでもない。なあ朝陽、今度の休み、一緒に料理してみるか」
「あ、それいいね。やりたい、教えて」
「ああ、約束な」
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