恋人カッコカリ

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「――(にい)(きょう)(にい)。起きろって」 「んん……あー、朝陽だあ。はは、来ないかと思った」 「バイトだったんだよ。ったく。酔っぱらい。店で寝たら迷惑だろ」  いつの間に眠ってしまったのだろうか。肩を叩かれる感覚で、恭生はハッと目を覚ました。なにか嫌な夢をみていた気がするが、朝陽の顔を見たらすっかり飛んでいってしまった。  目の前には空のジョッキが3つ。最後の一杯を空けた記憶は、残念ながらない。 「朝陽ー、久しぶりだけどあんま変わんないな。ふは、かわいいー」  目の前に立っている大きな男の腕を引けば、大人しく屈んでくれた。ちいさい頃から変わらない、少しくせっ毛な短い黒髪を撫でると、精悍な顔が不服そうにむくれる。  大切な幼なじみ。だが残念ながらもうずいぶんと、不機嫌な顔しか見られていない。  ――4つ年下、大学二年生の柴田(しばた)朝陽(あさひ)。実家が隣で親同士も仲が良く、ちいさい頃からたくさんの時間を共に過ごした、弟同然の存在。表情豊かで懐っこくて、まっすぐに恭生を慕ってくれていた。  だが、とあることがきっかけで嫌われてしまった。それ以来、もう何年も避けられている。  それでも恭生にとっては、かわいい弟に変わりないけれど。 「かわいくはないだろ」 「うん、そうだな。かわいい」 「はあ……恭兄はパーマかかってるし、また髪色変えた? 銀色?」  つんけんとしているけれど、落ち着いた口調の心地いいリズムが懐かしい。それでいて、声変わりした低いトーンは未だ聞き慣れなくて、心臓がぎこちない音を立てる。 「これはー、グレージュっていうの」 「ふうん。で? また振られたんだ」 「はは、そーう。もうさすがに恋愛は懲りたわ」 「……どうだか。ほら、帰るよ。歩ける?」 「当たり前……おっと」 「ああもう。しっかりしろって」  立ち上がろうとしたらふらついてしまった。だがすかさず、朝陽が支えてくれた。  変わんないな、なんて言ったけれど、再会する度に朝陽はたくましくなっている気がする。恭生だって身長なら178センチあるのだが、朝陽は優に185センチは超えていそうだ。そのうえ体まで鍛えられては、もうなにをしても勝てる気がしない。4つも年上なのにと情けなくなる。
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