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会計を済ませ外に出る。自覚している以上に酔っているのか、その数歩でまたよろめいてしまった。今度は腰を支えてくれた朝陽が、呆れたようにため息をつく。
「おぶろうか?」
「はは、大丈夫。歩けるよ」
「人にぶつかっても困るんだけど」
「う……それはそうだな」
朝陽は健気で、いつだって素直に恭生の後ろをついてくるような子だった。だが、こうなったら譲らないところがある。幼い頃、恭生が怪我でもすれば自分が手当てをするのだと泣いて、絆創膏を貼ってくれていたのを思い出す。
「じゃあ、お願いします」
「うん。じゃあ、俺のリュック代わりに背負ってて」
「わかった」
頷けばすぐに、目の前に屈む朝陽。手渡されたリュックはずっしりと重く、ゴツゴツと膨らんでいる。大学のテキストと、あとはなにが入っているのだろうか。なんだとしたって朝陽の大事なものだからと、慎重に背負う。
この歳でおんぶされるなんて、と躊躇いは否めない。だがおぶられてしまえば、無性に甘えたくなった。朝陽の首に手を回し、くったりともたれる。
「朝陽ー、重くないか?」
「こんくらい平気」
「そっか。今日はありがとうな、来てくれて」
「まあ。約束だし」
「朝陽は優しいな」
「……別に」
「……オレのこと、嫌いなのにな」
「ん? なに? 聞こえなかった」
最後のひと言は聞かれたくなくて、わざと朝陽のパーカーに顔を埋めてつぶやいた。
きちんと届いたら、更に嫌気がさしてしまうかもしれない。こんな日にも会ってくれなくなったら、いよいよ心が壊れてしまうから。
「ううん、なんでもないよ」
はぐらかして、回した腕にぎゅっと力をこめる。
――恭兄が振られたら、俺が慰めてあげる。
そう言われたのは、恭生が高校二年生、朝陽が中学一年生の夏のことだ。
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