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駅に到着し、朝陽の背中から下りる。電車に乗り、アパートの最寄り駅で降りて並んで歩く。限られた時間を有意義に使いたいのに、なかなか言葉が出てこないまま恭生の住むアパートに到着してしまった。
「酔い醒めた?」
「え? あー……」
立ち止まった朝陽が問いかけてくる。そうだ、いつも――とは言えこのアパートに送ってもらうのはこれで三度目だが――朝陽はアパートに寄ることもなく、ここで帰ってしまう。
今回の恋人との別れはどうにも堪えたようで、もうくり返したくないと思った。恋愛はもうこりごり。そんなことまで考えた夜だからか、まだひとりになりたくない。ひとりでなくなる相手が朝陽なら、どんなにいいだろう。
「うん、醒めた、と思う」
「よかった。じゃあ俺はこれで……」
「でも。でもまだ、元気じゃないかも」
「え?」
「慰めてあげる、って、朝陽言ってくれたよな」
「……うん」
「じゃあさ、うちに寄っていかない?」
「…………」
逃げるように目を逸らされるのが胸に痛い。
そうだよな、迷惑だよな。
乾いた笑い声が、口元を隠した拳にぶつかる。
「って、はは、困るよな。遅くなっちゃうし。ごめん、やっぱ今のな……」
「うん、寄ってく」
だが朝陽はそう言って、恭生の言葉を遮った。
「へ……マ、マジで!?」
「まだ元気じゃないんだろ。それに、恭兄が誘ったんじゃん」
「そうだけど……断られると思ったから。はは、すげー嬉しい。じゃあ、行こ」
「……ん」
まさか、頷いてもらえるとは思っていなかった。じんわりと体温が上がるのを感じながら、部屋の中へと朝陽を招く。
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