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不公平
「あのさ、リサ。羽みたいなのを、食べちゃったことなんてない? 」
「えっ、羽? 」
ふたりは、配達中によく出会う、川の土手の草むらに座って、話をしていた。
「ああ、羽。白いふわふわした、鳥の羽みたいなの」
「羽なんて…、食べたりしてないけど。
そういえば小さい頃、口に何かが入って、そのまま飲み込んじゃったことがあったけど、私、虫かと思ってた」
「それって、いつ? 」
「はじめてお兄さんと会った時」
それかもしれない。
そうじゃなきゃ、いつまでも俺のことが見えているわけがない。
「うーん、そうか…」
「どうかした? 」
「うん? あ、いや、仕事のことで、ちょっとね」
「そう。コウノトリのお仕事も大変なのね。
あのね、私の親戚のお姉ちゃんが、結婚したんだけど、赤ちゃんができなくて、医者に通ってるんだって。
そのお姉ちゃんに、あのベージュの封筒は届くかな? 」
「さあ…、それは、わからないな。俺はただ、天からの封筒を、届けてるだけだから」
「赤ちゃんの封筒が、届かない人もいるの? 」
「そうだね、いるよ」
「どんなに赤ちゃんがほしくても? 」
「うん」
「…不公平だね」
しばらく沈黙が続いたあと、お兄さんが言った。
「封筒が届かない、ってことでは、不公平かもしれないね。
でも、皆がみんな、欲しいものを与えられるわけじゃない。
与えられない、ってことも、生きていく中で、その人にとっての、天からのプレゼントのうちだったりするんだよね…」
「なにそれ。
そんなの、空っぽのクリスマスプレゼントみたいなものじゃない
私には、よくわかんない」
「…そうだよね」
ふたりの前を、鳥が一羽、通り過ぎて行った。
太陽も月も星も、誰にでも同じように天から光を降り注いでくれている。
光は平等なのに、それを受ける地上の命の営みは、どうして平等ではないのだろう。
「私には、封筒は届くかな」
リサのつぶやきに、お兄さんは答えることはできなかった。
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