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「最近ナヴィラはどうしてる?」
第二王子エレバンスは、真っ黒な髪で切れ長の目、兄のミッタルと比べて確かに温かみのかける容姿をしていた。
「相変わらずでございます。ご公務はなさっておりません」
ナヴィラつきの侍女リリアナが丁寧に答えた。本人の希望で、ナヴィラはデュカリオンから侍女を誰一人として連れてこなかった。
「では一体何をしているのだ」
「部屋で本を読むか、王立図書館で本を読むか……先日は、私と一緒に初めて町へと散策へお出かけになりました」
ん、とエレバンスは眉を寄せた。リポナスに来てからナヴィラが動きを見せるのは、それくらい珍しいことだった。
「買い物か」
「そう思いまして、王室御用達の宝石店やドレスショップをご案内したのですが、特にご購入される様子はありませんでした」
「何も?」
「何も……ですが少し気になることが」
「何だ」
「浪費するのは今ではない、と」
「どういうことだ?」
エレバンスは首をひねった。
「さあ……あともう一つ。エレバンス様は気が短い方か?と聞かれましたので、そんなことはないと正直にお答えました。他国では粗野で横暴で、学もないなどと揶揄されておりますが、第一王子ミッタル様と比べても引けは取りません、とお伝えしました」
「そ、それは褒めすぎだろ」
エレバンスは怒ったような顔になるが、照れているだけなのをリリアナは知っていた。
「思ったことを申したまでです」
リリアナは穏やかに微笑んだ。彼女は完全なるエレバンスの忠臣だった。
「ナヴィラは何だって」
「そうよねぇ、思った以上に聡い方で困るわ、と」
「俺のことをそう言ったのか?」
ほとんど会話さえしたこともないのに、なぜ聡いと言われたのか不思議でしょうがなかった。
「はい。それから、ご公務は当分なさらないとのことで、エレバンス様にもそのように報告してくれと」
エレバンスは少し考え、リリアナに尋ねる。
「お前から見たナヴィラはどうだ?」
「大変行き届いたお嬢様です。礼儀作法も所作も美しく、苦手なものはお見かけしたことがございません。おそらくご公務も、なさらないだけでお手のものかと思われますが……」
エレバンスは軽く目をつぶり、ゆっくり頷きながら聞いていた。
「やはり、お前もそう思うか……」
「はい」
うーん、と眉をひそめ何やら考え込む姿にも、近づけないほどの迫力があった。こういう姿を見て噂が一人歩きするのだろう。
「……やはり会いに行くしかないか」
「遅いですよ。何日経っているとお思いですか。ナヴィラ様も、放置プレイか何かとお思いでしょうね」
一瞬で主人の言葉を真っ二つに切り離すリリアナだったが、エレバンスはもう慣れたものだった。
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