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ノックの音が鳴り響くと、リリアナが部屋に入ってくる。ナヴィラはリリアナをたいそう気に入っていた。リリアナの心の声のおかげでエレバンスの人となりはだいたいわかっていたし、リリアナ自身の性格もよくわかった。
彼女はエレバンスを尊んでいるため、その婚約者であるナヴィラのことも丁重に扱ってくれる。そして何より切れのあるツッコミが大好きだった。
「エレバンス第二王子がお見えです」
ついに来たか!と、わざわざ机からソファーに移動し仰向けに寝転がって足を組む。天井側に本をかかげて読書する格好になった。
「失礼するぞ」
エレバンスは、ソファーに寝転がるナヴィラを見ても責めるようなことは言わなかった。
「くつろいでるところ悪かったな」
「いえいえ、こちらこそこのようなみっともない格好で申し訳ありません。突然だったので起き上がる時間もありませんでした」
(いやいや、王子が来るって伝えたでしょうが。そう言った瞬間寝転がったでしょうが)
という、リリアナの心の声はもちろん聞こえたが、彼女の表情は全く変わらない。非常に優秀な侍女である。
「そのままで結構」
微笑むエレバンスの表情は氷のように冷たかったが、恐ろしいくらいに美しかった。同じように美しい姉のセイナやリマたちと並んでいる姿を見たかったが、それも叶わぬ夢だ。
美しいものが並ぶ破壊力は、地味なナヴィラにとっては活力になるのだが、婚約がなくなればその機会は失わなれる、目的のためなら仕方のないことだった。
「リリアナから当分公務はする気がないと聞いたのだが」
「はい」
「まだこちらの国に慣れないか?」
「はい、慣れる気がいたしません」
「そうか……(そのスタンスを貫くつもりだな。だいたいソファーに寝たままとかわざとらしすぎるし、何で嫌われようとしてるんだ?デュカリオンを出るまでは普通だったよな。礼儀正しい王女だった。この国に来てからおかしくなったということは、自国を出たかったがリポナスでは俺と一緒にいたくないということだよな。婚約破棄が目的か?俺が噂以上に怖かったのだろうか)」
悩んでいるエレバンスの心は全てナヴィラに筒抜けだったが、あえて顔には出さない。婚約破棄が目的であることが相手に伝われば話は早かった。早々に婚約破棄していただきたい。
「……俺に嫌われようとしているみたいだが、婚約破棄が目的か?」
遠回しなことは言わず、エレバンスは単刀直入にそう尋ねてきた。そういう部分にはとても好感がもてる。
「もし俺と子をなすのが嫌というなら、無理強いするつもりはない」
そうきたか、とナヴィラはすぐに答える。
「そうではございません。エレバンス様はとても美しく聡明でいらっしゃいます。そんな方と子をなせるのであれば幸せなことです」
「……(え、何で急に褒めてくるんだ。嫌われたいのではなかったのか)」
「嫌われようと思っておりましたが、回りくどいやり方はやめます。何も言わず婚約破棄して下さい」
「理由は?」
理由は色々あったが、人の心の声が聞こえない所で暮らしたいというのが一番だった。しかし、それを説明すると信じてもらえない可能性が高い。
信憑性が必要なため、もっともらしい理由を並べ立てることにした。
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