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「私が地味で学もなく、礼儀作法もなっていないろくでもない王女だという噂はこちらにも伝わってきていますよね?王家にいるとそういう噂に振り回されて生活しなければなりません。それが嫌なのです。王家から離れ、誰の噂も届かない所でひっそりと暮らすのが私の夢。そのためには他国に出る必要がありました。そして他国であろうとも、ずっとここにいては変な噂に振り回されることになるでしょう。だから婚約破棄をして、人里離れた所でひっそりと生きていきたいのです」
エレバンス自身の心の声が届く前に、彼はすぐに話し始めた。
「確かに王家に噂はつきものだ。しかし、そなたは学もあるし、礼儀作法もあるとリリアナから聞いている。相当な本好きとも」
「いえいえ、恋愛小説ばかりですから」
「お言葉ですが、ナヴィラ様は大量の恋愛小説の間に、政治経済、歴史、地理、地学、語学、数学など大量の本をいつも携えております」
告げ口をしたのはもちろん侍女のリリアナだった。
「ほらな?勉学まで好んでいる。そんな素晴らしい人間とわざわざ婚約破棄する必要があるだろうか。逆に俺が悪い王子だと言われてしまう。ただでさえ、みんなに恐れられているのに」
勢いよくソファーから立ち上がると、ナヴィラは反論した。
「何をおっしゃいますか!エレバンス様こそ素晴らしいお方です。噂がこんなに嘘だらけとは……前々からわかっていたことですが、今回は本当に思い知らされました。エレバンス様は誠に賢く、尊く美しいお方です」
褒められ慣れていないエレバンスは厳しい表情のまま硬直するが、なぜかリリアナだけは大きく頷いていた。
「騎士団にも所属しているそうで、今朝もこっそり剣術の訓練を見に行ったのですが、あまりの強さに驚きました。実は私も自国では剣術の練習をしていたのです。いつ一人暮らしになっても困らないようにと、必要なことは全て学んでまいりました。ですが、エレバンス様の剣さばきにはとても敵いそうにありません」
「そうか……(いや、だから何でこんなに褒めてくるんだ?例え嘘でも、こんなに褒められたら婚約破棄とかしづらくなるのだが)」
「ちなみに嘘は申しておりません。一方的に私が悪い方向にして下さってかまいません。ぐうたらで公務もしないという理由でどうでしょう。家族には連絡して、エレバンス様が私の夢にご協力して下さっていることを説明します。だから私の家族に恨まれる心配もありません」
落ち着いた声で対応するエレバンス。
「そなたも知っているとは思うが、婚約破棄はそう簡単なことではない。それ相応の理由が必要で王に認められなければならない。俺は王太子でもないから難しいことではないと思うが、公務をサボっているくらいでは、正式な理由にはならないだろう」
「そうですか?公務をしないのは相当な理由だと思うのですが……まだ弱いですかね。では、もうすぐお金を浪費する予定なのでそれはどうでしょうか」
「浪費……?」
そう言えばリリアナがそんな話をしていたような……
「婚約のみで結婚しなければリポナスの経済効果は下がる一方です。そのタイミングで国のお金を勝手に使い込み浪費します。浪費すればリポナスの経済効果も上がりますし、それを理由に婚約破棄していただけないでしょうか」
不思議なもので、政略結婚で愛があったわけでもないのに、ここまで婚約破棄を懇願されると全く婚約を破棄したい気持ちにはなれなかった。
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