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「じゃあもし二回嘘をついたとして、どんなお願いをしようとしたんですか?」
「えっと……一つは"敬語ではなく、タメ口で"とお願いしようとしました」
紗理奈はキョトンとした顔で薫を見つめる。あまりにも簡単なお願いに拍子抜けした。
「もう一つは?」
「それは……もし村重さんさえ良ければ、連絡先を交換してほしいです」
紗理奈が積極的に聞いたからか、急に薫の勢いが失速する。その理由を想像して、紗理奈は鎌をかけてみることにした。
「そんなことでいいんですか?」
「えっ、何でですか?」
「だって簡単すぎるお願いだったから。っていうか、そんなのって普通に言ってくれればいつでもオッケーな案件なのに」
すると紗理奈は再びスマホの画面を開くと、薫の目をじっと見つめた。
「四月一日さん、今すぐ連絡先を交換して、タメ口でお話ししませんか?」
薫は驚いたように目を見開いてから頬を染める。
「えっ、本当にいいんですか?」
「もちろん」
先ほどまで薫優位で話が進んでいたのに、突然立場が逆転してしまったため、薫は明らかに動揺していた。
「こんなふうにお願いなんかしなくたって、普通に話せばこんなふうに約束出来ちゃうんだよ。だからさ、他にお願いはないの?」
すると薫は言葉に詰まりながらも、
「村重さんの趣味の時間、出来れば一緒に過ごしてみたいんだけど……」
と答える。
「いいよ。それは私も嬉しい。いつにする?」
「いきなりだけど、明日の日曜日は?」
明日は行きたいイベントがあったが、どうせ一人で行く予定だったし、人数が増えたところで何かが変わるわけでもない。
「いいよ。じゃあ明日、駅の改札前に待ち合わせでいい?」
「もちろん」
すると薫はハッとしたように飲んでいたグラスを手に持つと、紗理奈のグラスにカチンとあてると、
「お誕生日おめでとう」
と言った。
建前ではない、心からの『おめでとう』を今日初めて聞いた気がするーー紗理奈は満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう」
嘘が嫌いなシンデレラを迎えに来たのは、同じく嘘が嫌いな王子様。あと数時間で嘘の魔法がかかった時間は終わりの時間を迎え、何者にも染まっていない、二人の新しい時間が動き始める。
明日にでも、いつから私のことが気になっていたのか聞いてみようーーシンデレラのカクテルを飲み干した紗理奈は、不敵な笑みを浮かべた。
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