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不機嫌な紗理奈と薫以外のメンバーが盛り上がり始めた頃、二人はようやく顔を見合わせた。
「私ね、サプライズって嫌いなんです。相手の気持ちを全く考えてないと思いません? 喜ばないとしらけるし、でも無理矢理驚くのもおかしいし」
これは常々思っていたことだが、薫なら理解してくれそうな気がして話してみると、案の定薫は大きく頷いた。
「同感ですね。自身の行いを肯定するための体のいい言い訳に過ぎないと思いますよ」
「あぁ、わかる。しかもエイプリル・フールは嘘をついていいとかあり得ない。それでどれだけ嫌な思いをしてきたことか」
「嘘は嫌ですね」
「本当。嘘って大嫌いです」
二人は互いの心を探るように観察し合う。私たちは嘘が嫌い。ならば目の前にいるこの人は本音で話す人だろうかーー。
「村重さん、もし良かったらゲームでもしませんか?」
「ゲームですか?」
「えぇ。タイトルをつけるなら"嘘をつかないゲーム"ですかね。嘘をついたら負け。これから話すことは全て真実だけじゃないといけません」
「うーん、でも私たち、お互いのことをまったく知りませんよ。話したことが嘘が本当かはわからないじゃないですか」
「もちろん、それは村重さんにお任せします。ただ僕は『真実を話そう』と言いました。それに対してあなたがどう答えるかはわかりませんが、とにかく今日この場で嘘であることがバレてしまったら、その時点で負けです」
「なるほど。つまり嘘をついても、バレなきゃいいわけですね。まぁどうせ暇だしいいですよ。やってやろうじゃないですか。ちなみに勝った方に特典はあるんですか?」
「そうですね……ベタに相手の言うことを一つ聞く、はどうですか?」
「よし、乗った。やりましょう」
エイプリル・フール当日に"嘘をつかない"ゲームだなんて面白い。その発想に紗理奈はワクワクした。
「じゃあ質問。四月一日さんは、自分の名前は好きですか?」
先に口を開いたのは紗理奈だった。
「はい、好きです。そのことをからかってくる人間はクソうざいですが。村重さんはどうですか? ご自身の誕生日は好きですか?」
「意外と好きですよ。特別感がありますしね。ただクラスで一番の最後の誕生日なので、友達に祝われた記憶はありませんが。今日だって合コンのついでじゃないですか」
「あはは! 確かにそうですね」
薫が笑った顔を見て、珍しく紗理奈の胸が高鳴った。最近は大好きな雑貨にしかときめかなくなっていたので、そんな自分自身に驚いた。
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