111人が本棚に入れています
本棚に追加
何故こうなってしまったのか、紗理奈は天井を見つめながらため息をついた。
チーズフォンデュが美味しいと評判の小さな洋食店。ウキウキしながら店に入った紗理奈の目には、明らかにおかしな様子が映り込む。
女四人で紗理奈の誕生日会をするという話だったのに、店には四人がけのテーブルが二台並べられ、明らかに八人席になっていた。
今日は紗理奈の誕生日会を開いてくれると聞いたから仕事も早く切り上げたのに、いざ来てみればただの合コンだったのだ。
「おかしいな。私の誕生日会だと思って来たんだけど、これってどう見ても合コンじゃない?」
「ほらほらっ! エイプリルフールだし、サプライズだよ〜」
「あんたたちが合コンしたいだけでしょ」
「たまたま合コンとかぶっちゃって〜」
「断ればいいじゃない」
「でもでも! 誕生日会で出会いもあったら最高じゃない? ねっ? ほら、機嫌直してさ、もうすぐ男性陣も来るから笑顔でね!」
「無理。もう帰る……」
紗理奈が言いかけた途端店のドアが開き、若い男性がゾロゾロと店内に入って来たのだ。
「あっ、来た! じゃあ座って座って!」
「えっ、ちょ、ちょっと……」
場の空気を乱すのも良くないと思い渋々席に座るが、表情だけは嘘がつけずに眉間に皺が寄ってしまう。
なんで主役のはずの私が我慢しないといけないわけ? しかもサプライズって……エイプリル・フールのこういうくだらない嘘が、紗理奈は昔から大嫌いだった。
ある程度時間が過ぎたら帰ろうと心に決めて、とりあえず一番端の席に座る。
すると紗理奈の正面に立った男性も、何故か同じように不機嫌そうな顔をして椅子に腰を下ろしたのだ。
これはもしや、本人は知らずに合コンに連れてこられた感じかしらーー紗理奈がそう思っていると、
「ほらほらワタヌキ、機嫌直せよー。サプライズだって言っただろ?」
と仲間の一人に声をかけられた男性が、誰もが聞こえる音量の舌打ちをした。
"ワタヌキ"という名字を聞いた紗理奈は、思わずピクッと反応してしまう。
もしかしてこの人、サプライズで合コンに連れて来られただけでなく、他にも理由があるんじゃないかしらーー紗理奈は目の前の男性をじっと見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!