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「じゃあ四月一日さんは趣味とかあります? これだけは譲れない! みたいな」
「うーん、まぁいろいろありますが、強いて言うなら電車かな。どちらかと言うと乗り鉄だけど」
その途端、紗理奈の瞳が輝いた。
「うわっ、いいなぁ。実はちょっと電車好きなんです。すごく詳しいわけじゃないけど、新幹線とか特急は見かけると写真に収めてますよ」
「へぇ、それは偶然ですね。最近は何を撮りました?」
紗理奈はスマホの画面を開くと、写真のフォルダから一枚の写真を選択して薫の前に置いた。
「ありがちだけど、こまちとはやぶさ連結。まだ乗ってはいないんですけど、つい興奮して撮りまくっちゃいました」
「……なるほど。電車好きは本当のようですね」
彼の口ぶりからして、どうやら信用していなかったようだ。紗理奈は得意そうに笑って目を細めた。
「あら、もしかして疑ってました?」
「えぇ、少しだけ」
「まぁ本当のことを言うと、多趣味なんです。電車だけじゃなくて車も好きだし、コーヒーもラーメンもパフェもかき氷も好き。映画も読書も手芸も好きだし、むしろ一つには決められなくて、時間配分に困るんですけどね」
こんなに多趣味だと、一番を説明するのが難しい時があるが、それを理解して一緒に楽しんでくれたから人がいたらどんなに楽だろうと思ったこともある。ただそんな理想的な人とは出会えないのが現実だった。
ところが目の前にいる薫は興味深そうに瞳を輝かせたものだから、紗理奈は本日二度目の胸の高鳴りを感じる。
「へぇ、いいじゃないですか。好きなものがたくさんあるって羨ましいです。是非ご一緒したいところです」
「……それ、本気で言ってます?」
「もちろん、本気ですよ」
その時、友人の一人が酔った様子で紗理奈の隣にフラフラしながら座り込んだ。
「紗理奈ってば、ちゃんとお酒飲んでる〜?」
「もちろん飲んでるよ」
「それならよろしい! 誕生日なんだからちゃんと楽しみなさいよ〜」
いやいや、誕生日の私を楽しませてくれるわけじゃないの? 紗理奈は顔を引きつらせ、心の片隅でツッコミを入れる。
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