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問題は二つ。
「お父さん、いっくよー!」
「え?」
「両手広げて!」
「両手? こ、こうか?」
「うん!」
朝ごはんを食べた後学校に行く前に、お父さんに向かってダッシュで飛び込んでしがみついた。
「お父さん! 今日もお風呂で私の背中、ゴシゴシしてね!」
「え? あ……お、おう! 任せとけ!」
抱きつきながら見上げたら、お父さんは涙目だった。嬉しかったからなのか、みぞおちに肩がぶつかったからなのかはわかんないけど。すまぬ。
昨日までの私だったら絶対にそう言うだろうし、そもそも着替えを見られて叫ぶことさえなかったはずだ。今だってそう、自然に出た言葉でしかない。
何よりこの世界で、愛情たっぷりに私を育ててくれたお父さんとお母さんのことが大好きなことに変わりはないのだから。
べ、別に筋肉モリモリのお父さんの身体をガン見したいから、言ってる訳じゃないんだからねっ! 男の人の身体なんて星の数ほど見てきたし!
すみません嘘つきました。
お父さんの後はお母さんにも抱きついた。『いつ教えてくれるのかしらねえ~』って笑いながら呟いてたお母さんに背中を撫でられた時はめちゃめちゃ怖かった。ええ、体が震えました。ダッシュで行ってきます、しました。
●
そんな出来事のおかげで、いつもより早く学校に向かっている。
「メニュ、オープン!」
こうして、岡島未来の知識とアイラの記憶を重ね合わせるといろいろな事が見えてきておもしろい。
もちろん、11年というブランクは大きい。中学生の時くらいから、社会に出て働いたくらいの時間が過ぎている。さすがに、才色兼備な私でも。そう、才色兼備な私でも!
大事なことだから二回言った。反論は許しません。私の恨みを買ってもいいならどうぞ。
……冗談抜きで、『こうだったっけかなあ?』ということも多い。
この世界、私の住んでいるところはユクラっていう町。雰囲気はネットや画集で見たような中世のヨーロッパの街並みに近い。
「めっにゅう。めーにゅー、ぎゅーにゅー! ひっらけ!」
たまに見た中世の写真や絵は、キレイだったからいくら眺めても飽きなかった。眠れない時は眺めてるうちに寝ちゃったりしてた。
まさか自分が住むことになるとは夢にも思わなかったけどね!
色あせたレンガと木と石で作られた家。
石畳の大通り。
街のそこかしこにある噴水、大きな木。
町と自然の調和。
そんなユクラを歩く人々の服装は、中世というよりはゲームの世界に近いのかもしれない。
皮っぽい鎧を着て剣を腰につける男性や魔導師っぽいローブを着た女子を、いわゆる冒険者たちを私は何度も見てきたし、猫耳や犬耳の子供たちだって学校にいる。ちなみに学校と言っていたのは日本で言う大きな塾みたいなものだった。
ビバ!
猫耳少女!
熱烈歓迎!
もっふもふ!
……私、ゲームの世界に転生したのかな。
謎過ぎる。
「Open sesame!」
ポケットの中に入っている紙切れを触る。折りたたまれているこの紙に、字のようなものが書かれているのが見えた。
でも、まだ見ていない。
怖いじゃん!
ドッキドキじゃん!
学校から帰るまで我慢して、家でじっくり見ようと思う。うわー……何が書いてあるんだろう。レンジ君のこととか、この右目の視界の五分の一を支配する銀色の「メニュー」表示、とか。
そう。
今、早く解決したい問題は二つある。
レンジ君がこの世界にあることと、さっきから何を言ってもウンともスンとも反応しないメニュー。
すみません!
誰か、この異世界チュートリアルPlease!
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