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……思い出した。 これ、私だ。
『あー、今日もつっかれたあ……何で毎日毎日こんなに残業しないといけないんだろ。終電に間に合ってよかったよ……お風呂入ってご飯食べて……あ、お腹が鳴った。現金なお腹めー……うう、眠いよう』
ああ、またこの夢。ちっさい頃から何度も見てる。私、メニューを考えてるうちに寝ちゃったのかな。
いつもの黒髪のお姉さんがいる。猫目で切れ長、腰までの髪の毛を背中で一括りにしてる。おめかししたら美人なのかもだけど、雰囲気がユラおばさんみたいで心配になっちゃう。ヘトヘトで、いっつも眠そう。
でもひとりごとが何かおもしろくって、美味しそうにご飯を食べて、気持ちよさそうに寝るところを見てると、楽しい気持ちになる。
木とレンガがどこにもない不思議な部屋は、物があんまり置かれていない。けれど、どこか懐かしい……懐かしい?
『ふい~さっぱり。ご飯食べてとっとと寝ないと……。レンジ君、今日も頼んだ! 電子レンジ、マジ神! なむなむ』
あはは、手を合わせてる! あの黒い箱によく話しかけてるお姉さんの目は、いつも優しい。大事にしてるんだろうなあ。
『さてさて、夜中に食べると太っちゃうけど、ヘタしたら朝とお昼ご飯抜きで仕事だからなあ。いや、おかしいでしょ! おかしいよ! とか言って、結果が出てホメられるとどんどん気合い入っちゃうんだから自分のせいでもある。結局はお前かーい! デュクシっ!』
ひとりツッコミひとりボケかーい!
……え?
あれ?
ツッコミって?
え?
え?
ゾワゾワする!
何これ、気持ち悪いっ!
●
” ……ら、起きぬか。……に旅立つお前の望み…… ”
” んうー、やっと苦しくなくなったから寝かせてー、ぐう ”
えええ、声が聞こえる?!
どうなってるの?!
” 困ったの。仕方がない、こやつの人生を見て決めるか ”
” あと5000年~、すぴー ”
苦しく、なくなった……から?
旅立つ?
あ……噓。
そういうことだったんだ……。
●
……思い出した。
これ、私だ。
大学を出て新卒で入った商社の部署が慢性の人手不足で、私がワンオペで仕事を回してた。その時のことをずっと夢で見てただなんて。
『あっれ~? レンジ君おへそ曲げちゃったかな? 反応しない。接触不良? え? 噓でしょ? レンジ君レンジ様、お願いしますよぅ』
っていうか何これぇ! 私が昔のこと思い出したからここでこの場面持ってきてんの?! うわ、見たくない! カット! カットでお願いします!
『どうしよう。煮物は温まったからそれだけで……いや、どうしても食べたい。身体がハンバーグを求めてゾワゾワしてる。あ、動いた! ありがとうございますありがとうございます! レンジ君LOVE』
違うんだってば、ちっげーよ! よく聞けえ未来! それきっとレンジ君と身体が警報発してるだけ! その一個だけ鬼賞味期限が切れた冷蔵庫の親玉なんだって!
寝ぼけんなぁ!
食べちゃダメえ!
『よしよし、温まった。レンジ君長生きしてね……む? 色が変かな? 気のせいか。いっただっきまーす! うむ、美味し!』
気のせいじゃないよ、美味し、じゃないってーの! いっやあああああああ!
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