犯人

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犯人

 家の前にはパトカーが停まっていた。自分は無罪放免されたはずなのにと直人は不安を感じた。まだ疑われているのだろうか。そう思ったが自分が潔白である事は自分が一番分かっている。直人は堂々と玄関に向かった。 「あ、友美さんの旦那様ですか?」 「え? はい」  警察官が友美の名を出したので不審に思った。 「友美に何かあったんですか?」 「ええ……友美さんは今病院にいます」 「は? 事故ですか? どこの病院ですか?」 「それが……友美さんと一緒にいた男性が殺されてしまいまして。ええ、友美さんの目の前で。それで混乱してしまいまして、病院で鎮静剤を打って休んでもらっています」  そこで直人は全ての事情を知る事になった。友美は大分前から男と付き合っていた。しかしその男は結婚詐欺師だった。 「今朝一緒にホテルから出ると男が襲いかかり、相手の男性を滅多刺しにしたんです。結婚詐欺師め、と叫びながら」 「もしかして天誅と書いた紙を置いていったんですか?」 「何故あなたがそれを? まさかあなたが?」  警察官は一瞬身構え直人を睨んだ。直人は話す気にもなれなかったが今まで犯人と間違われ取り調べを受けていた事を話した。警察官は納得してくれた。 「どうしますか? 迎えに……なんて、行く気にはなりませんよね?」  警察官は憐れみの目を直人に向けた。  直人は考えた。裏切られた悔しさに、哀しさ、屈辱感。色んな感情がこみ上げてきた。騙されたのも浮気の代償だ、ざまあみろ。そうも思えた。しかし友美は幸せを求めたのだ。直人といては幸せではない。優しくて楽しい相手に心を奪われるのは当然だ。そして幸せな未来を信じていた。しかし相手が目の前で殺された。その上相手が結婚詐欺師だと知る。どれほどのショックを受けた事だろうか。直人の心が痛んだ。  確かに直人は裏切られた。妻として、してはいけない事をした。ただ友美は嘘はいっていない。「浮気はしていない」といっていない。
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