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「どこの病院ですか?」
「え、迎えに行かれるんですか?」
「夫婦ですから」
直人は病院へ行った。しかし友美は面会を拒否した。まだ混乱しているのだろう。直人に合わせる顔がないのだろう。直人は看護師に「家で待っているから」と伝言を残し、家に帰った。
その夜、警察から連続殺人事件の犯人が逮捕されたとの連絡が来た。自ら出頭してきたという。これで事件は解決した。もう疑われる事はないのだ。直人は体から力が抜けたような気持ちになり、風呂にも入らず眠りに就いた。
直人は次の日から仕事に戻った。体調が悪いわけでもないのに休む事はできなかった。
職場ではみな気を遣ってくれた。災難だったなとか、みんな信じていたからといってくれた。
しばらく1人の生活を送った。食事の支度も洗濯も掃除も自分でした。改めて友美のありがたさを感じた。
日曜日、テレビを観ながら朝食のトーストを食べていた。焦がしてしまった。友美が焼くと美味しそうなきつね色なのに、何故焦げるんだろうと不思議に思っていた時だった。
「連続殺人事件の詳細が分かってきました」
ワイドショーで事件について報じていた。直人は画面に見入った。
「犯行の動機も明らかになりましたーー」
先ず投資詐欺に引っ掛かり貯金を全て無くした。そして結婚の約束をしていたキャバ嬢からはお金のない人はいらないとフラレてしまった。絶望した犯人は宗教に救いを求め家を売り払い出家した。しかし財産のない者は信者を獲得し全財産を寄付させろと詐欺の片棒のような事をさせらた。
宗教に見切りをつけ何とか生活を立て直そうと市役所に相談に行った。しかし門前払いされ何の保護も受けられなかった。
精神を病み病院へ駆け込んだ。金が無いと分かっても親切に診察し入院までさせてくれた。しかしある日診察代代わりに臓器を寄越せと言い出した。
誰も彼もみな嘘つきの詐欺師ばかりだった。犯人は我慢の限界を超え、犯行に及んだ。
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