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「おはよう」
リビングに行き、テレビを観ている妻の友美に声をかけた。返事もせず背中を向けたまま友美はテレビを観ていた。
テーブルの上にはパンとコーヒーが置いてあった。最近は会話もなくなっていたが家事だけはやってくれる。直人は食卓につきコーヒーを口にした。
テレビでは連続殺人事件についてアナウンサーが沈痛な顔で報じていた。今年に入って既に5人が亡くなっている。犯人はまだ捕まっていない。
ふと直人は思い立った。友美から「あなたといても面白くない」と常々いわれている。真面目に正直に生きてきた直人は嘘もいわなければ冗談もいわない。友美は息苦しさを感じていたようだ。このままだと愛想をつかされてしまう。何とかしなければと直人は思っていた。
「この犯人、僕なんだ」
こんな突拍子もない話を信じるわけがない。きっと笑ってくれるだろう。友美の笑顔はとても可愛い。その笑顔を見たくて直人は嘘をついた。幸い今日は4月1日。嘘をつく罪悪感も少し薄らいでいた。
友美は目を丸くして振り向いた。しかし笑う事はなく、すぐさまテーブルの上に置いてあったスマホを手にした。
「もしもし、すぐ来てください。主人が犯人です。連続殺人事件の」
「え、何処に電話してるんだ」
「すぐ来てください」
「ちょっと……嘘だよ。冗談だよ」
直人は通話をやめさせようと友美の方に手をのばした。
「キャー! 早く来てください、攻撃されています!」
「違うよ」
「殺されるー!」
「誤解だ」
「来ないで! あつち行って!」
「だから嘘だって……」
そんなやり取りをしていると外からサイレンの音が聞こえてきた。
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