刑事

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刑事

 刑事は焦っていた。今年に入って既に5人もの被害者が出ている。だが犯人の目星もついていない。世間からの批判、上司からの圧力に押しつぶされそうだった。  この際誰でも良かった。証拠なんていくらでも捏造できる。直人から自白を取って犯人に仕立て上げてやる。そのためにはもっと強引に厳しく攻め立ててやる、刑事はそう目論んでいた。  直人が言っていたように、被害者の職業も年齢もバラバラだ。しかし共通点はあった。みんな嘘つきという事だ。投資家は詐欺師だし、キャバ嬢は客を騙して貢がせていた。教祖は二束三文の壺を幸せになるからといって信者に高額で売りつけていた。市役所職員は面倒くさがって市民の訴えを勝手に却下していた。医者は必要もない治療をし薬を出し私腹を肥やしていた。違法団体との関わりもあるようだ。  恨む人間は山ほどいる。誰が犯人でもおかしくない状況だった。 「でもみんなバラバラなのに何故連続殺人と断定できたんですか?」  直人が刑事に聞いた。 「全員嘘つきで詐欺師で私利私欲にまみれた奴らだ。恨まれても当然だ。正義の味方を気取った奴の犯行だろう」  刑事はわざと世間話をするような口調で説明した。気を許してボロを出させようという魂胆だ。 「”天誅”ってやつですか」  刑事はその言葉を聞き破顔した。 「とうとう尻尾を出したな。そうだ。被害者の傍らには”天誅”と書いた紙が置いてあったんだ。だから同一犯の仕業だ。しかしこの事は報道されていない。我々警察と犯人しか知らない事実だ。その言葉を口に出したという事は、お前が犯人だ!」  刑事は声を上げて笑った。ついに自白を取る事ができた。これで世間も落ち着くだろう。上司も自分の手腕を褒めてくれるだろう。自分がこの凶悪事件を解決させたのだ。笑わずにはいられなかった。
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