刑事

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 その時だった。制服姿の警察官が取調室に入って来た。 「失礼します」 「何だ、取り調べ中だぞ」 「それが……」  警察官が刑事に耳打ちをした。 「何だって? 本当か」 「はい」  刑事は苦虫を噛み潰したような顔で直人を睨んだ。 「さっさと帰れ」 「は?」 「帰れといってるんだ。釈放だ!」  刑事は慌ただしく取調室を出て行った。警察官によると新たな事件が起きたそうだ。 「今度は若い男が被害に遇ったんです」 「やはり”天誅”という紙があったんですか?」 「はい。あ、この事は誰にもいわないでくださいね。犯人の決め手となる情報なので」 「もちろんです」  事件が起きたという事は直人が犯人ではなかったという事だ。崩しようもないアリバイもある。直人はようやく解放された。  久しぶりに吸う外の空気は美味しく感じた。以前の直人なら、こんな排気ガスの混じった空気が美味しいなんていう人間がいたら嘘つきだと決めつけただろう。しかし今は本当に美味しかった。人間というのは置かれた状況によって感じ方が違うのだと気が付いた。自分の価値観と違うからといって嘘つきだと決めつけるのは間違っていたと反省した。
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