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「紫苑、おまえに依頼だ。例の家族が転居先を一緒に探してほしいってさ」
出社するやいなや、ボスに告げられた。
俺は西方紫苑、23歳。ボスは俺の叔父で不動産屋を経営している。学生のころからバイトをさせてもらっていて、就職浪人しそうなところを拾ってもらった。まさかそのまま不動産屋に就職するとは思ってなかったけど、俺の能力も活かせるし、今では就職してよかったと思っている。
「わかりました。老朽化でアパートの取り壊しが決定したんですね」
「ああ、これから行けるか? 転居先の候補は何件かピックアップして印刷しておいた。他の候補は、またあとでスマホに送っておいてやるよ」
「ありがとうございます。助かります」
ボスが、転居先候補の物件資料を手渡してくれた。
依頼人の家族が住むアパートは、自転車で10分の距離にある。俺が紹介したアパートに住んでいるから、場所は把握している。前のアパート探しは相当な数の物件を見てまわったから、今回も時間がかかりそうだ。そのときに仲良くなったから、少しは気が楽だけど……よし、気合い入れるぞ!
俺は両頬をたたき、目の前のボロボロのアパートを見あげた。
さびまくった鉄階段を上がって、依頼人の家族が住む部屋のドアをノックすると、わずかにドアが開き、ひゅ~どろどろ♪と、いかにもお化けが出てきますよ的なBGMが聞こえてきた。
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