11.私の事情を話しました

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11.私の事情を話しました

 久しぶりにゆっくり朝食を食べる。  やはりこの宿の食事はおいしいと、堪能しているエリアーナ。  目の前には1人前では足りないと、3人前の朝食を黙々と食べるジルコが座っている。  二人に会話はない。 (何か前以上にチラチラ見られてる気がする……)  悪意のある視線ではないが、見られていると落ち着かない。  エリアーナが一人でいるときは男性客からの視線を感じることはあったが、それにジルコが加わり今度は女性客からの視線も集めるようになった。  目の前の人物は特に気にする様子もなく、久しぶりのまともな食事を味わっているように見える。  所作が美しいわけではないが、汚いということもない。  普通の男性的な食べ方だ。  ただ見た目が麗しいので、大口を開けて頬張っていても絵になるのが『ジルコ』という人なのだろう。   (……ごちそうさまでした)  食べ終わったので、手を合わせて食器を片付ける。  ついでに食後のお茶をもらってくると、ジルコが食堂に来たばかりの2人組の女性客に話しかけられていた。 (すごい!どちらもすごい!女の子たちを無視し続けて黙々と食べるジルコさんも、それにめげず勝手に隣に座って話しかける女の子たちも。鋼メンタル同士のぶつかり合いだ)  エリアーナはどうなるのか興味が出てきたので見守ることにした。  少し離れた空いてるテーブルに腰掛ける。 「お兄さん、カッコイイですね!お一人ですかぁ?」 「私達昨日来たばかりなんです。王都のこと詳しくないんで、教えて下さーい♡」 「……」  ジルコの眉間にどんどんシワが寄っている。  それが見えていないのか、女性陣はボディタッチ作戦に移行した。 「……触んな。メシが不味くなる」  ジルコはつかまれた腕を振り払い、一瞥することもなく冷たく言い放つと残りの食事を頬張り、席を立った。  女性陣はそんな対応されるとは思っていなかったのか、ポカーンとしている。   (肉食系女子は異世界にも存在するんだなぁ)  エリアーナはフーフーして、温かなウー茶を飲んでいた。  その様子を見てジルコに青筋が立った気がするが、エリアーナは気にしていない。   ジルコが『ナンナノコイツ』という呪文を何度も唱えているが、特に何も起こらなかった。    部屋に戻り、お互いのベッドに座ると向き合う。  残念ながらこの客室にテーブルなんてないのだ。  くつろぎモードになりそうなのを理性を働かせ阻止すると、エリアーナは話し始めた。 「えー、まず私の事情を話すので、わからないことがあったらあとでまとめて聞いてもらえますか?」  ジルコは何も言わない。  それを肯定と取って、簡単に事情を話した。  話を聞き始めた当初は無表情だったジルコだが、聞けは聞くほどそれを保つのは難しかったようだ。 「……というわけで、私にはジルコさんの協力が不可欠なんです」   「つまりアンタは、家も仕事も失った状態でたまたま手に入れた(奴隷)をこき使って、楽したいんだろ?」  エリアーナの説明が伝わっているようで伝わっていない気がする。  決して楽がしたくて頼るわけではなかった。 「いえ、こき使おうとは思ってません!  お金も自分で稼いで、家も自力でちゃんと  見つけたいと思ってます。  ただ、私は市井の常識や  庶民として暮らしていく中での知識が  圧倒的にないんです。  なので、それを補うために  力を貸してほしいんです」  エリアーナの話を鼻で笑うジルコ。  その目は侮蔑の感情を隠さず伝えている。 「いや、素直に俺に『金稼げ』って  言えばいいだろ。  元聖女だの王太子の婚約者だっただの……。  そんなバカみたいな嘘つかなくても  俺はアンタに従わないって選択肢はないんだよ。  俺は『奴隷』でアンタは『主』なんだ。  ちゃんと奴隷がどういうものか  わかってるんだろ?  俺はもう『人』じゃない。  人としての扱わなくてもいい『モノ』なんだよ」  自嘲気味に笑うジルコを無言で見つめた。  イラッときていたからだ。 (嘘ついてないんですけど……)  奴隷の扱い方なんか知らないし、そもそも本当のことしか言っていないのである。  エリアーナはどうしたら嘘を言ってないと通じるか考えた。 「私が水の聖女だったって証明、してみせます!  本当は目立つことしたくないんですけど……。  背に腹は代えられないので」  ジルコはエリアーナの言葉を聞いても首を横に振るだけで、相手にしていない。  エリアーナは窓を開けて、青空に手をかざした。 「太陽(ひかり)を隠し 街を濡らせ 《雨空(プルービエ)》」  雲一つない晴天だったのが、一瞬で曇天になる。  そのうち、シトシトと静かな雨が降り出した。  ジルコは驚愕し、窓に駆け寄った。  身を乗り出して空や街を見ている。  エリアーナはそれを後ろへ下がって見守った。 「嘘だろ。天候操るなんて、それこそ聖女じゃないと無理……」  ジルコがエリアーナの方へゆっくりと振り返った。  信じられないものを見るような目だ。 「アンタ、本当に水の聖女だったのか……」     エリアーナは頷く。  ジルコの隣に立つと、再び空に手をかざして魔法を止めた。 「ベルレアン侯爵令嬢で  水の神の加護を受け生まれた聖女  そしてこの国の王太子の婚約者だった。  それが以前の私です。  今はどう生きていくか必死に考えてる  ただの庶民ですが……。  頑張って誰にも頼らず  一人で生きられるようになるので  それまでどうか、力を貸してください。  お願いします!!」  ジルコに向け頭を下げる。  息を呑む音がした。 「……やっぱ、アンタ頭おかしいだろ。  あんな大怪我治して、奴隷商から引き取って  求めるのはただの助言?  そんな馬鹿げた話があるかよ!  裏がないって方が信じられないくらい  俺にとって都合がいい話ってわかってるか?」  エリアーナはハッとした。  ジルコに大事なことを伝えていない。 「んー……たぶん、ジルコさんが考えてるより  ちょーっとややこしいかもしれません。  私、王太子の怒りを買っている状態なので  なるべく早く王都、というかこの国から  出たほうがいい状態です。  何か少しでもやらかしたら  物理的に即人生終了って可能性も  なきにしもあらずですね!」 「……ハ?」   「現状手持ちが金貨20枚くらいしかありません。  すぐ旅に出るのも無理がある金額ですよね。  なので、お金稼ぐ方法聞きに  冒険者ギルドに行ってみたんですけど  そもそもお金足りなくて  冒険者証すら作れないっていう……。  どうしたら、いいと思います?」  「……ハァー??」  ジルコは多分それ以上口は開けられないってほど大きな口を開けている。  顎が外れないか心配だ。 「……納得いったわ。  これは、全く都合がいい話なんかじゃない。  アンタには奴隷(信用できる人間)が必要だ」 「はい!必要です。  そうでないなら、奴隷を持とうなんて思いません。  元銀級冒険者のジルコさん、どうかお知恵を貸してください!」  もう一度頭を下げた。  藁にもすがる思いだからだ。  頭の上から特大のため息が聞こえた。 「わかったから頭を下げるな。  それされると何かゾワゾワする」  ゆっくりとジルコの方を見れば、頭を掻いて何か考えているようだった。  しばらくすると、深い緑の瞳と目が合った。 「少し時間をくれ。何か方法を考えてみる。  それと、何か金になりそうなものがあったら  すぐ換金してくれ。  丸腰ってわけにも行かないし  武器買うだけでも金貨20じゃ  旅支度も揃えられない」  エリアーナは手荷物を思い返すが、金目になりそうな物は一つもない気がする。  ジルコは書き物机に座ると、頭を抱えながら計画を練り始めた。  (真剣に考えてくれてるみたい……。私も何か金策考えよう)  部屋にいて考えの邪魔になるのも気が引けたので、ジルコに一声かけるとエリアーナは街をぶらつくことにした。  
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