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そのアパートは、少し構造が妙だった。
正確には土地の使い方がヘンとでも言えばいいのか。アパートの大きさに対して、土地があまりにも広いのである。だだっぴろい土地の真ん中に、ぽつんとボロアパートが建っている状態。容積率だとかそういうのは建築の知識がないのでわからないが、それでも土地の四分の一以下のサイズの建物しかないのは不思議ではある。
――こんなに広いなら、駐車場でも併設すりゃいいのに。
そんな疑問を持ったが、どっちみち免許もない僕には関係ないことだ。
引っ越し早々、山のように積み上がった段ボールを開けていると、どこからともなく歌が聞こえてきたのだった。
『どんぐりころころ ドンブリコ
お池にはまって さあ大変
どじょうが出て来て 今日は
坊ちゃん一緒に 遊びましょう~
どんぐりころころ よろこんで
しばらく一緒に 遊んだが
やっぱりお山が 恋しいと
泣いてはどじょうを 困らせた~』
なんとも懐かしい曲だ。歌っているのは子供の声である。微かにピアノの音も聞こえる。どうやら、誰かが伴奏しているか、本人が弾き語りをしているということらしい。
小さな子供の声は判別がつきにくいが、多分女の子の声だろう。うきうきした様子で、おなじみの『どんぐりころころ』の童謡を歌い続けている。
――へえ、このアパート、子供いるんだ。こんなボロいとこなのに。
ひょっとして貧しい家庭なのだろうか。いや、ピアノがあるならそこまで貧乏とも思えない。
あまり勘ぐるべきではないだろう。僕はなんとなく一緒に歌を口ずさみながら、荷ほどきを続けたのだった。
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