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真っ暗な天井裏は埃臭く、不気味だった。少し先で揺れる森田さんのライトを、夢中で追いかけた。
「花本さん、ほら、これだ! やっぱり丹下さんはここから来たんだよ!」
森田さんの目の前には、まっすぐベニヤの壁が伸びていた。その一角に、人一人通れるぐらいの隙間がぽっかりと開いている。
「界壁と言って、部屋と部屋の間は天井裏も壁で仕切られているものなんだ。でもここだけは開いてしまっている。つまり丹下さんは、この先から天井裏を伝って花本さんの部屋に出入りしていたんだよ」
興奮冷めやらぬといった様子で、森田さんはさらに隙間の向こうへと身を投じてしまう。
「こっちは……なんてこった! 方角的に僕の部屋じゃないか。丹下さんは、どうやら僕の部屋の真上を通っていたらしい。僕とした事が、全く気づけないなんて……完全に丹下さんにしてやられたぞ」
花本さん、と森田さんは急に私を振り向いた。
「向こうの界壁も調べてみよう。どこかに同じように、穴が空いているはずだ!」
私は言われるがまま、さらに奥の界壁へと取り付いた。上下左右にライトを照らし、それらしき隙間を探していく。
が――
壁と壁がぶつかる角まで達して、私は立ち止まった。
どこにもそれらしき隙間は見当たらない。
「森田……さん」
咄嗟に名前を呼ぶが、いつの間にか森田さんの姿は見当たらず、胸騒ぎを覚えた。
どういう事だろう。
頭の中が混乱してくる。
丹下さんは天井裏を伝って、私の部屋までやってきたはずだった。でも天井裏は私と森田さんの部屋の天井を繋ぐだけで、その先を結ぶ穴はどこにも見当たらない。じゃあ一体、丹下さんはどこから出入りしたのか。私の部屋から逃げ出した丹下さんは、どこへ消えてしまったのか。
――いや。
私の脳裏に、一つの疑問が浮かび上がる。
本当に、犯人は管理人の丹下さんなんだろうか。
もし私の想像が合っていれば……犯人の逃走ルートは一つだけ存在する。
ごくりと生唾を飲み込み、私はライトで足元を照らしながら震える足を進めた。
クローゼットの天井に開いた、天井裏への点検口。私の部屋にあったという事はつまり、隣に住む森田さんの部屋にも――
「花本さん」
真後ろから名前を呼ばれて、私はすくみ上った。
「何か見つかったのかい?」
「……いえ」
吐息を感じるほど近くに森田さんの存在を感じた。全身を包み込む恐怖から逃れたい一心で、私は努めて明るく、言った。
「そろそろ戻りましょう。私、なんだか怖くなって来ちゃった」
踏み出そうとした私の手を、後ろから森田さんが掴む。私はびくり、と大きく身震いした。
「それは駄目だ」
森田さんは言った。
「花本さんだって知りたいだろう。本当の犯人が誰なのか。原田みちるさんが、どうやって部屋から消失したのか。……いや、他の二人もと言うべきか。これから僕が全部、教えてあげるんだから」
そうして森田さんは、そっと私の首に両手をかけたのだった……。
<了>
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