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地上六階建てマンションの六階。
エントランスとエレベーターの利用にはICタグ型の非接触キーを必要とする二重セキュリティーを装備し、管理人も常駐と防犯対策も万全。
1LDKと謳われた間取りは、実質的には1DKに近くやや手狭ではある。周囲のビルに比べると階層的には低いので日照にはやや難があるものの、最寄り駅からは徒歩十五分で、道中にはスーパーやコンビニもある。これといって大きな欠点も見当たらない、優良物件。
にも関わらず、近隣の相場に比べるとやや格安なのが気になった。
とはいえ不動産屋は事故物件ではないと、自信満々に言い切った。殺人はもちろん、自殺や病死もない。住民トラブルもない。
私も気になって調べてみたが、それらしき事件はどこにも見当たらなかった。
「じゃあ、どうして安いんですか?」
「もう六月ですしね。引っ越しというのは年度末に集中するものなんです。今の時期に残っているのは、言い換えれば売れ残りのようなものですし」
そんなものなのかと訝しみつつも、前のアパートの契約満了日も近づいていたため、入居を決めるに至った。
引っ越し当日までの流れも、非常にスムーズだった。不動産屋を通して事前に連絡を入れた甲斐あって、電気やガスの切り替えも管理人が事前に手配をしてくれていた。
「はじめまして。今日からお世話になります」
「あー、あんたが花本さんね。よろしくお願いしますわ。私はいつでも管理人室におりますんで、部屋の鍵を失くしたから開けて欲しいとか、何かあればいつでも言ってくださいな」
丹下という管理人は、背の低い、ずんぐりむっくりとした中年の男だった。
「いやぁ、それにしても、聞いてた話だともっと歳がいったおばさんかと思ってましたわ。えらい若いべっぴんさんなんですな。眼福眼福」
丹下の視線が胸元に向けられているように感じて、私はそれとなくジャケットの前を手繰り寄せた。
「……一応不動産屋さんには確認したんですけど、私の部屋って事故物件とかそういうのではないんですよね?」
「おやまぁ、そういうの気になさるタイプですか? そんなはずはないですが、もし心配なら私が添い寝でもしましょか」
ひょっひょっひょっと笑う丹下に手土産の菓子を押し付けるようにして、私はその場から逃げ出した。仕事はできるのかもしれないが、とんだエロ親父だ。
このマンションに欠陥があるとすれば、あの管理人と言えるのかもしれない。後で不動産屋に釘を刺しておこうと私は心に留めた。
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